2008年09月24日
連載小説『三銃士〜光が照らすイミテーション〜』
『ミッドナイト・シアター編』
その1・太陽は南に沈む
横浜市。その地名は『海から見た時、横に長い浜』に由来する。江戸時代末期より港町として栄え、現在では人口350万人を突破。大阪市を抜いて全国第2位の人口を誇る巨大都市へと発展している。
そんな横浜市の中でも、最大の面積を誇るのが戸塚区。人口は市内では第4位の26万人という規模だが、区内には多く自然が残っており、のどかな雰囲気を残している。
自然とも触れ合え、東京に出るのも便利(東海道線直通で40分)!落ち着いた環境で子育てがしたい…でも通勤は都内…『クレオ戸塚』は、そんなファミリーに最適の物件です!
「…と。こんな感じでどうだ?」
南はペンを置いた。
「どれどれ……あぁ、いいと思う」
金沢は南が書いた文章と、マンションの完成図が描かれたラフ案を照らし合わせてうなずいた。
「…しかしよ、ボス。俺達は新聞社だぜ。何で不動産屋の折込チラシ製作のバイトなんかしなきゃいけないんだ?!」
「…不況で仕事がないんだ、仕方ないだろ」
不機嫌そうに椅子に座る南、冷静にラフ案にペンを入れる金沢。
金沢が編集長兼社長を務める『戸塚新聞社』は、戸塚駅前にある、小さな新聞社。地域密着をテーマに、『戸塚新報』という地元紙を15年に渡り発行してきた。10名に満たない新聞社だが、常に11万5千部を発行。地域に根ざす新聞社としての地位を確立しつつあった。
しかしここ数年のインターネットの普及増大と長引く不況により仕事は減少。何とか食いつなぐために、不動産屋の折込チラシのような本業以外の仕事も請け負わなくてはならない状況だった。
真夏の日差しは、容赦なく戸塚新聞社に照りつける…
「…まぁでも、仕事もないがネタもないんだよな。記事にするような…」
そういってうなだれる南は、記者歴10年のベテラン。生まれも育ちも横浜で、横浜を愛していると豪語している。その愛は半端ではなく、戸塚新聞社に来る前は某大手新聞社の腕きき記者として活躍(勤務地はもちろん横浜)していたが、異動で転勤を申し渡され猛反発。辞表を叩きつけてその日のうちに辞めてしまった。
そして5年前、知人を通じて金沢と戸塚新聞社の存在を知り、入社。今に至っている。
「…俺がここに来た頃は、戸塚駅前西口の再開発問題で、住民と業者の衝突があったりして、結構面白い記事が描けたんだけどなぁ…」
「その問題も、業者の必死の説得で和解して、今じゃ普通に工事が始まっているしな」
そうだよな、と相槌を打つ南。窓から入ってくる蝉の声と、金沢がラフ案にペンを入れる音が部屋の中に響く。
「あれ、そういえばあいつはどこ行ったんだ?この前入った…」
「…旭(あさひ)のことか?」
「そうそう、旭。健太郎のこと」
「…南…旭が入ってきたのは半年前だぞ。この前っていう表現はおかしいんじゃないか…」
そんな話をしていると、ドタバタと走ってくる音が近づいてくる。やがて足音はオフィスの前で止まり、ドアを開けた。
「只今帰りました!」
夕日の光と共に入って来たのは、話題に上がっていた旭健太郎。鞄とデジカメを肩に担ぎながら帰ってきた。
「…おぉ、お帰り健太郎。どこに行ってたんだ?」
「どこって…南さん、取材に決まってるじゃないですか。…はいこれ、取材して来たネタです」
記事に出来るようなネタがあったかな…と考えつつ、健太郎から受け取ったノートを開いた。金沢も横からのぞきこむ。そこには…
『原油高の影響ここにも。ガソリンスタンドは更地に、暴走族は徒歩に〜矢部町レポート〜』
『矢部町在住の岩清水カネさん、78歳で剣道2段を取得〜矢部町レポート〜』
『相次ぐ不動産ショック!区内大手の青島建設、民事再生法手続き開始〜品濃町レポート〜』
『常勝寺の住職、大麻所持で逮捕!〜品濃町レポート〜』
…何か、玉石混交な感じがしてならなかった。
「…どうですか?」
「…むむ。ばぁちゃんが剣道2段になったとか、住職が大麻で捕まるとかはまぁ…なんというか…アレだが、他の2つはいいんじゃないか。目の付けどころも今の時代にマッチしていて」
しかしながら、南が心の中で一番評価したのは、何とか記事のネタを探して新聞を作ろうとする意欲と、それを実行できるフットワークだった。
(…ネタなんて、探しゃ何かしらあるもんだよな。…ないのは…)
「俺の行動力ってことか」
南はポン、と健太郎の肩を叩き、外へ出ようとした。
「ん?どこへ行くんだ?南?」
「取材だよ、ボス」
と行ってそのまま外へ消えていった。
「珍しい…次の締切まで1週間以上あるのに、自分からネタを探しに行くなんて…旭効果ってやつか…」
オフィスを出た南は、原付で戸塚警察署に来ていた。懇意にしている警官から近況を聞くも、特筆すべきものはなし…
「…まぁ仕方ない。他を当たっていくか…」
南は再び原付を走らせた。
6時を過ぎ、段々辺りは暗くなってきた。特に今南が走っていた小雀町付近は林が多いため、より暗く感じられた。そんな折…
「…ん?なんだあれは…?」
南は、前方に何かを発見した。
「異様に明るいな…あれはまさか!」
次回、『思いがけない贈り物』に続く
その1・太陽は南に沈む
横浜市。その地名は『海から見た時、横に長い浜』に由来する。江戸時代末期より港町として栄え、現在では人口350万人を突破。大阪市を抜いて全国第2位の人口を誇る巨大都市へと発展している。
そんな横浜市の中でも、最大の面積を誇るのが戸塚区。人口は市内では第4位の26万人という規模だが、区内には多く自然が残っており、のどかな雰囲気を残している。
自然とも触れ合え、東京に出るのも便利(東海道線直通で40分)!落ち着いた環境で子育てがしたい…でも通勤は都内…『クレオ戸塚』は、そんなファミリーに最適の物件です!
「…と。こんな感じでどうだ?」
南はペンを置いた。
「どれどれ……あぁ、いいと思う」
金沢は南が書いた文章と、マンションの完成図が描かれたラフ案を照らし合わせてうなずいた。
「…しかしよ、ボス。俺達は新聞社だぜ。何で不動産屋の折込チラシ製作のバイトなんかしなきゃいけないんだ?!」
「…不況で仕事がないんだ、仕方ないだろ」
不機嫌そうに椅子に座る南、冷静にラフ案にペンを入れる金沢。
金沢が編集長兼社長を務める『戸塚新聞社』は、戸塚駅前にある、小さな新聞社。地域密着をテーマに、『戸塚新報』という地元紙を15年に渡り発行してきた。10名に満たない新聞社だが、常に11万5千部を発行。地域に根ざす新聞社としての地位を確立しつつあった。
しかしここ数年のインターネットの普及増大と長引く不況により仕事は減少。何とか食いつなぐために、不動産屋の折込チラシのような本業以外の仕事も請け負わなくてはならない状況だった。
真夏の日差しは、容赦なく戸塚新聞社に照りつける…
「…まぁでも、仕事もないがネタもないんだよな。記事にするような…」
そういってうなだれる南は、記者歴10年のベテラン。生まれも育ちも横浜で、横浜を愛していると豪語している。その愛は半端ではなく、戸塚新聞社に来る前は某大手新聞社の腕きき記者として活躍(勤務地はもちろん横浜)していたが、異動で転勤を申し渡され猛反発。辞表を叩きつけてその日のうちに辞めてしまった。
そして5年前、知人を通じて金沢と戸塚新聞社の存在を知り、入社。今に至っている。
「…俺がここに来た頃は、戸塚駅前西口の再開発問題で、住民と業者の衝突があったりして、結構面白い記事が描けたんだけどなぁ…」
「その問題も、業者の必死の説得で和解して、今じゃ普通に工事が始まっているしな」
そうだよな、と相槌を打つ南。窓から入ってくる蝉の声と、金沢がラフ案にペンを入れる音が部屋の中に響く。
「あれ、そういえばあいつはどこ行ったんだ?この前入った…」
「…旭(あさひ)のことか?」
「そうそう、旭。健太郎のこと」
「…南…旭が入ってきたのは半年前だぞ。この前っていう表現はおかしいんじゃないか…」
そんな話をしていると、ドタバタと走ってくる音が近づいてくる。やがて足音はオフィスの前で止まり、ドアを開けた。
「只今帰りました!」
夕日の光と共に入って来たのは、話題に上がっていた旭健太郎。鞄とデジカメを肩に担ぎながら帰ってきた。
「…おぉ、お帰り健太郎。どこに行ってたんだ?」
「どこって…南さん、取材に決まってるじゃないですか。…はいこれ、取材して来たネタです」
記事に出来るようなネタがあったかな…と考えつつ、健太郎から受け取ったノートを開いた。金沢も横からのぞきこむ。そこには…
『原油高の影響ここにも。ガソリンスタンドは更地に、暴走族は徒歩に〜矢部町レポート〜』
『矢部町在住の岩清水カネさん、78歳で剣道2段を取得〜矢部町レポート〜』
『相次ぐ不動産ショック!区内大手の青島建設、民事再生法手続き開始〜品濃町レポート〜』
『常勝寺の住職、大麻所持で逮捕!〜品濃町レポート〜』
…何か、玉石混交な感じがしてならなかった。
「…どうですか?」
「…むむ。ばぁちゃんが剣道2段になったとか、住職が大麻で捕まるとかはまぁ…なんというか…アレだが、他の2つはいいんじゃないか。目の付けどころも今の時代にマッチしていて」
しかしながら、南が心の中で一番評価したのは、何とか記事のネタを探して新聞を作ろうとする意欲と、それを実行できるフットワークだった。
(…ネタなんて、探しゃ何かしらあるもんだよな。…ないのは…)
「俺の行動力ってことか」
南はポン、と健太郎の肩を叩き、外へ出ようとした。
「ん?どこへ行くんだ?南?」
「取材だよ、ボス」
と行ってそのまま外へ消えていった。
「珍しい…次の締切まで1週間以上あるのに、自分からネタを探しに行くなんて…旭効果ってやつか…」
オフィスを出た南は、原付で戸塚警察署に来ていた。懇意にしている警官から近況を聞くも、特筆すべきものはなし…
「…まぁ仕方ない。他を当たっていくか…」
南は再び原付を走らせた。
6時を過ぎ、段々辺りは暗くなってきた。特に今南が走っていた小雀町付近は林が多いため、より暗く感じられた。そんな折…
「…ん?なんだあれは…?」
南は、前方に何かを発見した。
「異様に明るいな…あれはまさか!」
次回、『思いがけない贈り物』に続く
Posted by ヤギシリン。 at
01:42
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