2007年07月08日
連載小説『東京堕天使〜マリアと下僕たち〜』
第2回 『ドロップ編・後編 夢見る少女じゃいられない〜Missing you〜』
成功と名誉は、目標に向かって日々努力と苦労を重ねた者の下にやってくる。
宿河原暢也の場合はどうだったのだろうか。彼は中学3年の時に音楽に出会い、虜になった。
『日本中の人に認められ、影響を与えられるような曲を作りたい…』
その一念でバンド活動を続け、4年余りが経った時、彼は一念発起し、地元宮崎を出、東京へ出る決意をする。
それから2年は草の根活動なライブを続け、ひたすら日が当たるのを待った。
音楽活動にかけた6年という彼の努力の歳月は、ある時、大手レコード会社のプロデューサーの前で演奏出来るという舞台を用意した。
「茜…見てくれ。俺はきっと、このチャンスを掴んでデビューしてみせる!」
暢也は、自分を慕い共に上京、東京での生活を支え続けてくれた鹿島田茜にこう約束した。
「ノブ…頑張って…」
もちろん彼女も、暢也の成功を祈りながら、未来を描いた。
…それから1年半後…
「…ノブ…遅いなぁ…今日もどこかで飲んでるのかな…」
2004年8月6日、23:00。今日はバイトのなかった茜はひとり、テレビをつけながら暢也の帰りを待っていた。
成功と名誉は、目標に向かって日々努力と苦労を重ねた者の下にやってくる。
宿河原暢也の場合はどうだったのだろうか。彼は中学3年の時に音楽に出会い、虜になった。
『日本中の人に認められ、影響を与えられるような曲を作りたい…』
その一念でバンド活動を続け、4年余りが経った時、彼は一念発起し、地元宮崎を出、東京へ出る決意をする。
それから2年は草の根活動なライブを続け、ひたすら日が当たるのを待った。
音楽活動にかけた6年という彼の努力の歳月は、ある時、大手レコード会社のプロデューサーの前で演奏出来るという舞台を用意した。
「茜…見てくれ。俺はきっと、このチャンスを掴んでデビューしてみせる!」
暢也は、自分を慕い共に上京、東京での生活を支え続けてくれた鹿島田茜にこう約束した。
「ノブ…頑張って…」
もちろん彼女も、暢也の成功を祈りながら、未来を描いた。
…それから1年半後…
「…ノブ…遅いなぁ…今日もどこかで飲んでるのかな…」
2004年8月6日、23:00。今日はバイトのなかった茜はひとり、テレビをつけながら暢也の帰りを待っていた。
1年前、プロデューサーの前でのライブに成功した暢也は、大手レコード会社“T”との契約が決定。デビュー曲からヒットを重ね、有名バンドの仲間入りをしつつあった。
と同時に、彼は成功と名誉の他、『驕り』も手に入れてしまった。デビュー当初こそ初心を忘れず、レコーディングにライブにと奔走していたが、ここ3〜4ヶ月は仕事が終わっても真っ直ぐ帰ってくることは少なく、飲み歩いたり遊び歩いたりするようになっていた。25時になってもまだ戻らない…更に夜は更けて行く。
「…ふぅ…ただいま…」
暢也の声が聞こえたのは、家の窓から朝日が差し込み始めた翌朝5:00過ぎであった。
茜は布団には入らず、居間にあるソファに腰掛けて、寝ずに暢也の帰りを待っていたが、睡魔に勝てず、26:00を過ぎた辺りで眠ってしまった。
…ドアが開く音と、暢也の声で彼女も目を覚ました。彼の姿を見つけ、かけた声は『お帰り』ではなく、
「…どこ行ってたの?…もう朝だよ」
だった。
「…バンドのメンバーと飲んでたら、盛り上がりっちゃって…」
暢也は『遅くなってごめん』とも言わず、別にどうってことないだろ?と言わんばかりのニュアンスで答えた。
それを聞いて、むっとした茜は、
「…それならそれでさ…連絡くらい入れてよね。心配するじゃない。…それとも…連絡出来ないような、うしろめたいことでもあったの?」
と、皮肉たっぷりに切り返した。言い争いは更に泥沼にはまっていく…
「…何だよ、その言い方。何を疑ってんの?」
「…別に…」
「別にってことはないだろ?言いたいことがあるなら言えよ」
「……じゃあ言わせてもらうけど。3ヶ月前も同じようなことがあったじゃない。『バンドのメンバーと飲んでた』なんて言っておきながら、他の女と2人で遊んでたんじゃない!朝まで!今回もそのパターンなんじゃないの?」
「…あれはもう、終わったことだろ…あの娘とは恋愛感情もなかったし、もう終わったんだ。それは茜も知ってるだろ?…連絡しなかったことは謝るよ…ごめん」
暢也は急にギクシャクし始めた。まくしたてる様に弁解したかと思うと、『じゃあ寝るから』と言って奥の部屋に引っ込んでしまった。
「…怪しい…」
3ヶ月前、暢也は何処で知り合ったのか、人気アイドルの蓮田曜子と懇意になっていた。その時もよく帰りが遅くなったり、茜と一緒にいてもコソコソメールしたり、席を外して電話していたり怪しい行動が多かった。
茜が厳しく追求した所、暢也も仕方なく認め、『今後はもう曜子とは会わない』と約束させた上、彼女のアドレス・電話番号も破棄させた。
今回も、腑に落ちない部分を感じていたが、茜自身も疲れていたのでその日はそのまま、部屋に戻った。
それから2週間後の金曜日…
「じゃあ行ってくるよ」
あの日から、暢也はしっかりと家に帰ってくるようになり、遅くなる場合もしっかり連絡を入れて来た。
『…やっぱり気にし過ぎだったのかも…あの日も本当に、バンドの人達と飲んでいただけなのかも…』
と、暢也の更生を信じて始めていた。
「行ってらっしゃい。頑張ってね…」
この日の朝も、快く暢也を送り出した。
しかし。暢也が再び、家の敷居を跨ぐことはなかった…
きっかけはとても些細なことだった。その日の午後、茜は17:00からのバイトが入っていたため、16:00丁度発の中央線で東京駅へ向かっていた。
「あ…あの席開いてる」
開いている席に座って、一息ついた時…ふと、右隣に座っていた男の雑誌がちらりと見えた。
「…!え…?こ…これって…」
その雑誌の記事の見出しには、『蓮田曜子、人気バンド・GANz(ガンズ)のボーカル宿河原暢也と深夜のデート!』とあった。
茜は自分の目を疑った。思わず、
「貸して下さい!」
と、男の読んでいた雑誌をひったくり、紙面がクシャクシャになる程記事を読み返した。
「な…何すんだよ…」
男が何を言っても、茜はお構いなしに記事を読み続けた。
雑誌はFRIDAYで、記事の内容は、蓮田曜子と暢也が2週間前の夜、渋谷の町を2人で楽しそうに歩いているのをスッパ抜いたものだった。
「2週間前って言ったら…あの遅く帰って来た日じゃない!や…やっぱりあいつ〜!」
『中野〜中野です。どなた様も、お忘れ物のないようお降り下さい…』
怒り心頭に達した茜は、まだ東京に着いていないにも関わらず、すぐさま電車を飛び降り、暢也に電話をかけた。
「…あ、もしもし?茜か、どうしたんだ?」
何も知らない愚かな男は、軽い口調で電話に出た。
「どうした?じゃないわよ、このバカ!嘘つき!」
暢也にとっては正に晴天の碧歴。茜の怒号で耳が痛くなった。
「…な…何だ?何のことだよ…」
「分からないなら教えてあげるわよ!今日のFRIDAYにね、あんたと大好きな曜子ちゃんが手ぇつないで歩いてんのがデカデカと載ってるのよ!あの朝帰りだった日のことがね!」
「…え…?い…いやそれは…」
「弁解しても無駄だからね!こんなに大きく記事にされるなんて、偉くなったものね、おめでとう!」
「…い、いや違うんだそれは…」
「何が違うのよ!」
故郷宮崎を出、ミュージシャンとしての成功を志し上京した暢也。そしてその成功を願い、彼を慕って共に上京した茜。
かくして夢は叶ったものの、その夢の成功が暢也に『驕り』を与え、二人の間を裂いていく。これが大都市・東京の魔力なのだろうか…
そしてその魔力は、更に二人を翻弄してゆく…
-続く-
次回『マリア降臨編その1 あなたに逢いたくて〜マジで恋する5秒前〜』は7月16日更新予定です!感想・意見等、どんどん書き込んで下さい!
よろしくですm(__)m
と同時に、彼は成功と名誉の他、『驕り』も手に入れてしまった。デビュー当初こそ初心を忘れず、レコーディングにライブにと奔走していたが、ここ3〜4ヶ月は仕事が終わっても真っ直ぐ帰ってくることは少なく、飲み歩いたり遊び歩いたりするようになっていた。25時になってもまだ戻らない…更に夜は更けて行く。
「…ふぅ…ただいま…」
暢也の声が聞こえたのは、家の窓から朝日が差し込み始めた翌朝5:00過ぎであった。
茜は布団には入らず、居間にあるソファに腰掛けて、寝ずに暢也の帰りを待っていたが、睡魔に勝てず、26:00を過ぎた辺りで眠ってしまった。
…ドアが開く音と、暢也の声で彼女も目を覚ました。彼の姿を見つけ、かけた声は『お帰り』ではなく、
「…どこ行ってたの?…もう朝だよ」
だった。
「…バンドのメンバーと飲んでたら、盛り上がりっちゃって…」
暢也は『遅くなってごめん』とも言わず、別にどうってことないだろ?と言わんばかりのニュアンスで答えた。
それを聞いて、むっとした茜は、
「…それならそれでさ…連絡くらい入れてよね。心配するじゃない。…それとも…連絡出来ないような、うしろめたいことでもあったの?」
と、皮肉たっぷりに切り返した。言い争いは更に泥沼にはまっていく…
「…何だよ、その言い方。何を疑ってんの?」
「…別に…」
「別にってことはないだろ?言いたいことがあるなら言えよ」
「……じゃあ言わせてもらうけど。3ヶ月前も同じようなことがあったじゃない。『バンドのメンバーと飲んでた』なんて言っておきながら、他の女と2人で遊んでたんじゃない!朝まで!今回もそのパターンなんじゃないの?」
「…あれはもう、終わったことだろ…あの娘とは恋愛感情もなかったし、もう終わったんだ。それは茜も知ってるだろ?…連絡しなかったことは謝るよ…ごめん」
暢也は急にギクシャクし始めた。まくしたてる様に弁解したかと思うと、『じゃあ寝るから』と言って奥の部屋に引っ込んでしまった。
「…怪しい…」
3ヶ月前、暢也は何処で知り合ったのか、人気アイドルの蓮田曜子と懇意になっていた。その時もよく帰りが遅くなったり、茜と一緒にいてもコソコソメールしたり、席を外して電話していたり怪しい行動が多かった。
茜が厳しく追求した所、暢也も仕方なく認め、『今後はもう曜子とは会わない』と約束させた上、彼女のアドレス・電話番号も破棄させた。
今回も、腑に落ちない部分を感じていたが、茜自身も疲れていたのでその日はそのまま、部屋に戻った。
それから2週間後の金曜日…
「じゃあ行ってくるよ」
あの日から、暢也はしっかりと家に帰ってくるようになり、遅くなる場合もしっかり連絡を入れて来た。
『…やっぱり気にし過ぎだったのかも…あの日も本当に、バンドの人達と飲んでいただけなのかも…』
と、暢也の更生を信じて始めていた。
「行ってらっしゃい。頑張ってね…」
この日の朝も、快く暢也を送り出した。
しかし。暢也が再び、家の敷居を跨ぐことはなかった…
きっかけはとても些細なことだった。その日の午後、茜は17:00からのバイトが入っていたため、16:00丁度発の中央線で東京駅へ向かっていた。
「あ…あの席開いてる」
開いている席に座って、一息ついた時…ふと、右隣に座っていた男の雑誌がちらりと見えた。
「…!え…?こ…これって…」
その雑誌の記事の見出しには、『蓮田曜子、人気バンド・GANz(ガンズ)のボーカル宿河原暢也と深夜のデート!』とあった。
茜は自分の目を疑った。思わず、
「貸して下さい!」
と、男の読んでいた雑誌をひったくり、紙面がクシャクシャになる程記事を読み返した。
「な…何すんだよ…」
男が何を言っても、茜はお構いなしに記事を読み続けた。
雑誌はFRIDAYで、記事の内容は、蓮田曜子と暢也が2週間前の夜、渋谷の町を2人で楽しそうに歩いているのをスッパ抜いたものだった。
「2週間前って言ったら…あの遅く帰って来た日じゃない!や…やっぱりあいつ〜!」
『中野〜中野です。どなた様も、お忘れ物のないようお降り下さい…』
怒り心頭に達した茜は、まだ東京に着いていないにも関わらず、すぐさま電車を飛び降り、暢也に電話をかけた。
「…あ、もしもし?茜か、どうしたんだ?」
何も知らない愚かな男は、軽い口調で電話に出た。
「どうした?じゃないわよ、このバカ!嘘つき!」
暢也にとっては正に晴天の碧歴。茜の怒号で耳が痛くなった。
「…な…何だ?何のことだよ…」
「分からないなら教えてあげるわよ!今日のFRIDAYにね、あんたと大好きな曜子ちゃんが手ぇつないで歩いてんのがデカデカと載ってるのよ!あの朝帰りだった日のことがね!」
「…え…?い…いやそれは…」
「弁解しても無駄だからね!こんなに大きく記事にされるなんて、偉くなったものね、おめでとう!」
「…い、いや違うんだそれは…」
「何が違うのよ!」
故郷宮崎を出、ミュージシャンとしての成功を志し上京した暢也。そしてその成功を願い、彼を慕って共に上京した茜。
かくして夢は叶ったものの、その夢の成功が暢也に『驕り』を与え、二人の間を裂いていく。これが大都市・東京の魔力なのだろうか…
そしてその魔力は、更に二人を翻弄してゆく…
-続く-
次回『マリア降臨編その1 あなたに逢いたくて〜マジで恋する5秒前〜』は7月16日更新予定です!感想・意見等、どんどん書き込んで下さい!
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Posted by ヤギシリン。 at 22:14│Comments(0)