2007年02月13日

ブログ小説『彼女が微笑む時』

☆第一話☆
ホワイト・サイレント・ナイト

「都子が?」
それは、12月24日の夜のこと。涼は同級生の推子から連絡を受けた。
「そうなの…二人で食事していた帰り、お店を出て横断歩道を渡ろとしたら…急に車が突っ込んで来て…」
電話越しから泣きじゃくった推子の声が聞こえる。推子も相当動揺していて、はっきりした状況は掴めなかったが、とにかく、横断歩道を渡ろうとした時、暴走車が突っ込んで来て、それに撥ねられたとか…
「都子…私をかばって、自分だけ…!」
「分かった。とにかくすぐに病院に向かうよ。場所は?…東神奈川の…うん、分かった。すぐに行く。じゃあ現地で」
電話を切るなり涼は家を飛び出した。時刻は午後11時45分。電車があるかどうか微妙な時間帯だったが、涼はお構いなしに駅を目指した。
外はかなり冷え込みんでいて、雪がちらつき始めていた。…今日はクリスマス・イブ。正にホワイト・クリスマスというべきシュチエーションだが、そんなことを考えてる余裕もなく、涼はひたすらに走った。

最寄りの山手駅に着いたのは12時3分前。Suicaを自動改札に叩きつけ、12時丁度発の南浦和行き最終電車に駆け込んだ。
「くそっ…よりによってイブの日に、何でこんな…」
電車に乗るなり、空いている座席に力なく座り、涼は顔を覆った。涼と都子は大学の同級生で、付き合ってからもうすぐ1年になる。涼は、都子の命の無事を祈っていたのは勿論だが、それ以外にも気にかけていることがあった。
実は今朝、小さなことがきっかけでケンカになり、仲直りできないまま夜を迎えてしまっていた。
「まだ謝ってもないのに…このままじゃ、もし…都子にもしものことがあったら…っ」
涼ははやる気持ちを抑えきれず、全身汗びっしょりになっていた。
やがて電車は東神奈川に到着した。涼は改札を飛び出すと、都子が入院している済生会病院へ向かって走った。
「!推子ちゃん…」
今はもう、12時を過ぎている。薄暗い病院の待合室で、連絡をくれた十条推子と出会った。
「涼君…都子が…都子がっ…!」
「推子ちゃん、落ち着いて。まずは状況を聞かせてくれないか」
泣きじゃくる推子をなだめて、経緯を聞いた。自身も推子と同じように、取り乱しそうなのを必死に抑えながら…
推子の話はこうだった。今日、都子と同じ講義を受けていた推子は、講義後『また涼とケンカを、しかもイブの日にしてしまって、どうしたら仲直りできるか…』と相談を受けたという。
「それで、横浜で食事をしていたの。その帰り際に横断歩道を渡ろうとしたら………信号は青だったのに…車が突っ切ろうとして…都子、私をかばって…」推子は膝から崩れ落ちて、再び泣き出してしまった。
涼も、泣きたかった。同じように倒れ込んで泣きたかった。が、推子の手前、ぐっと堪えていた。
「それで今、都子の容態はどうなんだい?」取り乱す推子を優しくなだめ、聞いた。
「…担当の先生が言うには、頭を強く打っていて、とても危険な状態だって…」
今にも消え入りそうな声で、推子は答えた。「それにもし、命が助かったとしても…記憶喪失か…植物状態になるかもしれないって…」
「………分かった。推子ちゃん、ありがとう。今日はもう夜遅い。君はもう帰るんだ」
「え…でも」
「大丈夫。都子には俺がつくから。さぁ…」
何とか推子をなだめ、手術の行われている部屋の場所だけ聞いて、家に帰るよう促した。
推子がいなくなったのを確認すると、今度は涼が膝から崩れ落ちて泣いた。
「都子が…都子が…明日をも知れない命なんて…そんなっ!」
涼の声は夜の病院の待合室に切なく、そして虚しく響くだけだった…
?第2話に続く?
☆感想等々、意見があったらどんどん言って下さい?よろしくですm(__)m☆


Posted by ヤギシリン。 at 22:02│Comments(1)
この記事へのコメント
芝居やりてぇな
Posted by 西よりの使者 at 2007年02月13日 23:31
 
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