2007年02月13日
ブログ小説『彼女が微笑む時』
☆第ニ話☆
藤澤真輔と綾瀬遥
『じゃあね』という言葉には深さがある。人はみな、仕事が終わった時・学校が終わった時・またはデートが終わった時この言葉を使う。
それは、明日になればすぐに会えるから。…しかし。卒業式等の時に使う『じゃあね』はどういう意味合いを持つだろう。
『じゃあね』と言って次に会うのはいつだろう?1年後?十年後?それとももう会えないかもしれない。
そう考えると、普段何気なく使っている『じゃあね』も、深い意味を帯びてくる。
もし『じゃあね』と言って別れた後、遠い所に引越すことになってしまったら?交通事故に遭い、帰らぬ人になってしまったら?
…そんな言葉の魔力に翻弄される男が一人。唐木田涼。
彼はクリスマスイブというのに、彼女である都子とケンカ別れを。夜になったら謝ろうと思っていた矢先、皮肉なことに彼女は、交通事故に遭い危篤状態に陥ってしまった。『じゃあね』とも『ごめん』とも言えないまま…
藤澤真輔と綾瀬遥
『じゃあね』という言葉には深さがある。人はみな、仕事が終わった時・学校が終わった時・またはデートが終わった時この言葉を使う。
それは、明日になればすぐに会えるから。…しかし。卒業式等の時に使う『じゃあね』はどういう意味合いを持つだろう。
『じゃあね』と言って次に会うのはいつだろう?1年後?十年後?それとももう会えないかもしれない。
そう考えると、普段何気なく使っている『じゃあね』も、深い意味を帯びてくる。
もし『じゃあね』と言って別れた後、遠い所に引越すことになってしまったら?交通事故に遭い、帰らぬ人になってしまったら?
…そんな言葉の魔力に翻弄される男が一人。唐木田涼。
彼はクリスマスイブというのに、彼女である都子とケンカ別れを。夜になったら謝ろうと思っていた矢先、皮肉なことに彼女は、交通事故に遭い危篤状態に陥ってしまった。『じゃあね』とも『ごめん』とも言えないまま…
明けて翌日、12月25日。クリスマスの午後はさわやかな青空に包まれていた。…が、昨日のことが尾を引く涼の顔は晴れない。
結局昨夜、推子と病院で分かれたあと、涼は手術室へ向かったが、都子との面会は叶わなかった。
担当医が言うには、一通りの手当は終わり、命に別状はないらしい。
しかし。頭を強く打っており、記憶喪失や自我の戻らない植物状態等、後遺症が残る可能性が大きいという。医師はこう言っていた。『今は面会謝絶だか、明日の夕方までには一通りの手術は終わるだろう。そうなれば会うことも出来るだろうから、また明日来るといい』と…
大学へ行く電車の中、涼は疲れた顔でぽつんと座っていた。
「…何て顔してんだよ?」
「?…あぁ、シンか」涼の横に座ったのは、大学の同級生で同じ部活の、藤澤真輔だった。彼と涼は、高校時代からの友人であった。「あぁ…じゃないよ。何か凄い…死にそうな顔してるぞ。大丈夫かよ?」
「…大丈夫じゃないよ」 ふぅっと溜め息をついて力なく言った。
「ははぁ、その落ち込みよう、昨日はクリスマスイブだ。さてはまた、都子ちゃんとケンカして散々だったんだろ!図星だろ」
ニヤニヤしながら真輔が言う。彼は昨夜の出来事をまだ知らないので、涼の心の中に土足で入り、傷口に塩を塗っていく。
「ケンカだけならよかったんだけどな…」
涼は真輔に事情を話した。
『白楽〜白楽です。4番線は各駅停車・渋谷行きです…』
涼達の大学は白楽にある。駅に着くまでには、話は終わった。
最初はまた、些細な痴話ゲンカの類だろうと、タカをくくっていた真輔も、次第に神妙な表情になり
「そうか…」
というだけで、言葉をかけづらいようだった。
二人は改札を出、大学へ向かった。二人とも言葉が出ず、無言のまま 歩いた。
「…最近さ」
大学の正門にさしかかった辺りで、思い出したように真輔が言った。
「お前と都子ちゃん、ケンカ多いよな」
「え?まぁそういやそうかも。…でも何でまた?」
突拍子もないことを言われ、キョトンとしていると、真輔は無言で正面を指さした。
「その原因はアレかな、と思ってさ」
真輔が指す先には、こっちの方へ歩いてくる女が見えた。
「あれは…ハルか」
彼女は綾瀬遥といい、涼達の二つ下の部活の後輩だった。もともと面倒見の良い性格の涼と、人なつっこい遥は部内でも仲が良い。最近では、
『あの二人、何かあるんじゃないか?』 という声も聞こえるようになっていた。
「それは…」
涼は言葉に詰まった。「やっぱりね」
真輔はニヤリと笑った。涼は慌てて、勘違いするなよ!と前置きして、
「俺は本当にハルとは恋愛感情もないし、ただの後輩としか思ってない!」
最初はニヤニヤしていた真輔だが、涼の表情を見て、神妙な面持ちになり
「冗談さ。…三年前のお前とは違うものな。お前は変わったし…あの噂話は信じてないよ」 そう言って、涼の肩を軽く叩いた。
「今日は先輩。これから講義ですか?」
話し合っているうち、渦中の人・遥は涼達に気付いたらしく、こっちに来てあいさつした。
(こいつも何を考えているか分からん…涼には都子ちゃんがいるのを知っているだろうに、彼女の前でやたら涼と仲良くしたがる…可愛い天然風キャラで通っているらしいが…気にいらないな)
真輔は遥をあまりよく思っていないようだった。遥が笑顔であいさつしても、大して表情を変えなかった。
涼も涼で、都子の件があるので、元気なくあいさつを返すばかりだった。そんな二人を見て、
「?どうしたんですか?元気ないですね…」「まぁ…寝起きだからね。ハルはもう講義終わったんだ?」
「はい。これから友達と約束があるんで、横浜に行きます。じゃ、講義頑張って下さいね!」
遥はまたニコッと笑って、足早に駅の方へ歩いて行った。涼も真輔も、敢えて彼女には都子の件は話さなかった。
「とにかく、講義が終わったら見舞いに行こうぜ。俺も行く。どこだっけ?場所」
「東神奈川だよ。済生会」
「分かった。じゃあ4限が終わったら待ち合わせしよう。4時半に駅改札前で」
「了解。じゃあ後で」
二人は大学の正門をくぐり、別々の教室に向かった。
約束の、午後4時半。涼も真輔も時間通りに白楽駅に集まった。
「じゃあ行くか」
改札を抜けると、すぐに電車が来た。
「あのさ…シン」
「ん?」
「都子のこと、誰かに話した?」
「いや…特には。話したところで混乱させるだけだし、事態が好転するワケじゃないじゃん」
「そうだよな」
これ以上会話のないまま、電車は途中駅横浜に着いた。東横線の改札を出、京浜東北線に乗り換えようと、JRの改札に向かおうとした時…二人は予期せぬ人物と遭遇した。
「!ハル…」
「涼先輩…藤澤先輩…」
そう、大学で別れたはずの遥だった。思い起こしてみると、確かに遥は横浜に向かうと言っていた。友達と約束がある、と言っていたが、今の遥は一人だ。(何でまたこいつが…)
とは言わないが、真輔は顔をしかめた。
「偶然ですね…何処へ行くんですか?」
「別に…」
「東神奈川の病院に行くんだ。都子の見舞いにね…」
しらばっくれようとした真輔の言葉を遮って、涼は素直に打ち明けた。
(お前…人に話したところで、混乱させるだけだって言ったのに、何で…)
(しょうがないだろ。こんな所で会っちまったんだから…隠してたっていずれ知れることだし…)
勝手にしろとばかりに、真輔はそっぽを向いた。
「え?都子先輩のお見舞いって、何があったんですか?」
「実は…交通事故で…」
(涼…個人的な感情かもしれないが、俺はこの綾瀬という女に良いものを感じないんだ。そう…3年前のお前と同じ感じがするんだ!…都子ちゃんのことを綾瀬に話せば、何か悪いことが起こる。…そんな気がするんだ)
しかし、あまりにも根拠のない意見だったために、真輔は何も言わず、ことの成り行きを見つめていた。
結局遥も都子の見舞いに行くことになり、計らずも事態は、真輔の予感した展開となっていくのであった。
〜第三話『汚れた十字架』に続く〜
☆★感想等々色々な意見を送って頂けると嬉しいです?よろしくですm(__)m☆★
結局昨夜、推子と病院で分かれたあと、涼は手術室へ向かったが、都子との面会は叶わなかった。
担当医が言うには、一通りの手当は終わり、命に別状はないらしい。
しかし。頭を強く打っており、記憶喪失や自我の戻らない植物状態等、後遺症が残る可能性が大きいという。医師はこう言っていた。『今は面会謝絶だか、明日の夕方までには一通りの手術は終わるだろう。そうなれば会うことも出来るだろうから、また明日来るといい』と…
大学へ行く電車の中、涼は疲れた顔でぽつんと座っていた。
「…何て顔してんだよ?」
「?…あぁ、シンか」涼の横に座ったのは、大学の同級生で同じ部活の、藤澤真輔だった。彼と涼は、高校時代からの友人であった。「あぁ…じゃないよ。何か凄い…死にそうな顔してるぞ。大丈夫かよ?」
「…大丈夫じゃないよ」 ふぅっと溜め息をついて力なく言った。
「ははぁ、その落ち込みよう、昨日はクリスマスイブだ。さてはまた、都子ちゃんとケンカして散々だったんだろ!図星だろ」
ニヤニヤしながら真輔が言う。彼は昨夜の出来事をまだ知らないので、涼の心の中に土足で入り、傷口に塩を塗っていく。
「ケンカだけならよかったんだけどな…」
涼は真輔に事情を話した。
『白楽〜白楽です。4番線は各駅停車・渋谷行きです…』
涼達の大学は白楽にある。駅に着くまでには、話は終わった。
最初はまた、些細な痴話ゲンカの類だろうと、タカをくくっていた真輔も、次第に神妙な表情になり
「そうか…」
というだけで、言葉をかけづらいようだった。
二人は改札を出、大学へ向かった。二人とも言葉が出ず、無言のまま 歩いた。
「…最近さ」
大学の正門にさしかかった辺りで、思い出したように真輔が言った。
「お前と都子ちゃん、ケンカ多いよな」
「え?まぁそういやそうかも。…でも何でまた?」
突拍子もないことを言われ、キョトンとしていると、真輔は無言で正面を指さした。
「その原因はアレかな、と思ってさ」
真輔が指す先には、こっちの方へ歩いてくる女が見えた。
「あれは…ハルか」
彼女は綾瀬遥といい、涼達の二つ下の部活の後輩だった。もともと面倒見の良い性格の涼と、人なつっこい遥は部内でも仲が良い。最近では、
『あの二人、何かあるんじゃないか?』 という声も聞こえるようになっていた。
「それは…」
涼は言葉に詰まった。「やっぱりね」
真輔はニヤリと笑った。涼は慌てて、勘違いするなよ!と前置きして、
「俺は本当にハルとは恋愛感情もないし、ただの後輩としか思ってない!」
最初はニヤニヤしていた真輔だが、涼の表情を見て、神妙な面持ちになり
「冗談さ。…三年前のお前とは違うものな。お前は変わったし…あの噂話は信じてないよ」 そう言って、涼の肩を軽く叩いた。
「今日は先輩。これから講義ですか?」
話し合っているうち、渦中の人・遥は涼達に気付いたらしく、こっちに来てあいさつした。
(こいつも何を考えているか分からん…涼には都子ちゃんがいるのを知っているだろうに、彼女の前でやたら涼と仲良くしたがる…可愛い天然風キャラで通っているらしいが…気にいらないな)
真輔は遥をあまりよく思っていないようだった。遥が笑顔であいさつしても、大して表情を変えなかった。
涼も涼で、都子の件があるので、元気なくあいさつを返すばかりだった。そんな二人を見て、
「?どうしたんですか?元気ないですね…」「まぁ…寝起きだからね。ハルはもう講義終わったんだ?」
「はい。これから友達と約束があるんで、横浜に行きます。じゃ、講義頑張って下さいね!」
遥はまたニコッと笑って、足早に駅の方へ歩いて行った。涼も真輔も、敢えて彼女には都子の件は話さなかった。
「とにかく、講義が終わったら見舞いに行こうぜ。俺も行く。どこだっけ?場所」
「東神奈川だよ。済生会」
「分かった。じゃあ4限が終わったら待ち合わせしよう。4時半に駅改札前で」
「了解。じゃあ後で」
二人は大学の正門をくぐり、別々の教室に向かった。
約束の、午後4時半。涼も真輔も時間通りに白楽駅に集まった。
「じゃあ行くか」
改札を抜けると、すぐに電車が来た。
「あのさ…シン」
「ん?」
「都子のこと、誰かに話した?」
「いや…特には。話したところで混乱させるだけだし、事態が好転するワケじゃないじゃん」
「そうだよな」
これ以上会話のないまま、電車は途中駅横浜に着いた。東横線の改札を出、京浜東北線に乗り換えようと、JRの改札に向かおうとした時…二人は予期せぬ人物と遭遇した。
「!ハル…」
「涼先輩…藤澤先輩…」
そう、大学で別れたはずの遥だった。思い起こしてみると、確かに遥は横浜に向かうと言っていた。友達と約束がある、と言っていたが、今の遥は一人だ。(何でまたこいつが…)
とは言わないが、真輔は顔をしかめた。
「偶然ですね…何処へ行くんですか?」
「別に…」
「東神奈川の病院に行くんだ。都子の見舞いにね…」
しらばっくれようとした真輔の言葉を遮って、涼は素直に打ち明けた。
(お前…人に話したところで、混乱させるだけだって言ったのに、何で…)
(しょうがないだろ。こんな所で会っちまったんだから…隠してたっていずれ知れることだし…)
勝手にしろとばかりに、真輔はそっぽを向いた。
「え?都子先輩のお見舞いって、何があったんですか?」
「実は…交通事故で…」
(涼…個人的な感情かもしれないが、俺はこの綾瀬という女に良いものを感じないんだ。そう…3年前のお前と同じ感じがするんだ!…都子ちゃんのことを綾瀬に話せば、何か悪いことが起こる。…そんな気がするんだ)
しかし、あまりにも根拠のない意見だったために、真輔は何も言わず、ことの成り行きを見つめていた。
結局遥も都子の見舞いに行くことになり、計らずも事態は、真輔の予感した展開となっていくのであった。
〜第三話『汚れた十字架』に続く〜
☆★感想等々色々な意見を送って頂けると嬉しいです?よろしくですm(__)m☆★
Posted by ヤギシリン。 at 22:05│Comments(3)
この記事へのコメント
初めまして!
とても流れがスムーズで読んでいて話に引っ張り込まれました(^ー^)
続きもドンドン読んでいこうと思います!!
ところで1つ聞きたいのですが、途中からカッコ(この()カッコ)での会話が出て来るのですが、それは心の声ですか?それとも本当に会話してるのですか?あの部分だけ作者さんがどう表現しているのかが分からないので教えてください。
途中から真輔の気持ちがよく出て来るんだけど、2話の視線は真輔中心で書いてるんでしょうか?
とても流れがスムーズで読んでいて話に引っ張り込まれました(^ー^)
続きもドンドン読んでいこうと思います!!
ところで1つ聞きたいのですが、途中からカッコ(この()カッコ)での会話が出て来るのですが、それは心の声ですか?それとも本当に会話してるのですか?あの部分だけ作者さんがどう表現しているのかが分からないので教えてください。
途中から真輔の気持ちがよく出て来るんだけど、2話の視線は真輔中心で書いてるんでしょうか?
Posted by まいこ at 2007年03月13日 13:56
おはようございます。
読んでいただいてありがとうございます。
2話は真輔目線の話を意識したわけではなく…これから先の展開において、
真輔はこんな性格ですよ、ということを書いておいたほうが面白くなると思ったので、彼の心理描写が多くなってます。
で、もう一つ。()のあり方はまちまち。
(お前…人に話したところで、混乱させるだけだって言ったのに、何で…)
(しょうがないだろ。こんな所で会っちまったんだから…隠してたっていずれ知れることだし…)
この部分はひそひそ話。
(涼…個人的な感情かもしれないが、俺はこの綾瀬という女に良いものを感じないんだ。そう…3年前のお前と同じ感じがするんだ!…都子ちゃんのことを綾瀬に話せば、何か悪いことが起こる。…そんな気がするんだ)
これは、心の中の声ですね。
どちらなのか?は文脈に合わせて読んでいただければと思います!
乞うご期待!
読んでいただいてありがとうございます。
2話は真輔目線の話を意識したわけではなく…これから先の展開において、
真輔はこんな性格ですよ、ということを書いておいたほうが面白くなると思ったので、彼の心理描写が多くなってます。
で、もう一つ。()のあり方はまちまち。
(お前…人に話したところで、混乱させるだけだって言ったのに、何で…)
(しょうがないだろ。こんな所で会っちまったんだから…隠してたっていずれ知れることだし…)
この部分はひそひそ話。
(涼…個人的な感情かもしれないが、俺はこの綾瀬という女に良いものを感じないんだ。そう…3年前のお前と同じ感じがするんだ!…都子ちゃんのことを綾瀬に話せば、何か悪いことが起こる。…そんな気がするんだ)
これは、心の中の声ですね。
どちらなのか?は文脈に合わせて読んでいただければと思います!
乞うご期待!
Posted by 鶴見在住・黒八木さんからの手紙 at 2007年03月14日 08:31
お返事貰えててビックリ!
答えてくれてありがとうございます。
今日もこれから3話から読み進めたいと思います。
答えてくれてありがとうございます。
今日もこれから3話から読み進めたいと思います。
Posted by まいこ at 2007年03月14日 13:23