2007年02月13日
ブログ小説『彼女が微笑む時』
☆第四話☆
唐木田涼の過去編後編
汚れた十字架
「涼…どうしよう」
雪奈の妊娠でっち上げからニ週間。騒動のほとぼりも徐々に冷め始め、涼も反省しそして雪奈の心の闇の部分に恐れを抱きながらも、まだ彼女と付き合っていた。
そんなある日の学校帰り、雪奈は深刻な表情で涼にこう言った。
「ん?なにが?」 「実は…本当に、できてたみたいなの」
「…ん?…それってもしや、子供がってこと?」
雪奈は無言で頷いた。だが、雪奈には前科がある。
その顔をじぃっ…と見つめる涼。彼も暫く何も言わなかったが、にやりと笑って
「またまたぁ」
と言って全くとりあわなかった。
「真面目に聞いてよ!」
雪奈は大きな声で言った。その声の大きさには周りの通行人も立ち止まるほどで、涼もさすがにただこどではないなと気付き、真剣な表情で雪奈と向き合った。
「…そりゃあ私も、この前同じ嘘をついたけど、今度は本当なの。だって…」
「だって?」
「医者に…そう言われたから…」
雪奈は涼から視線を外さない。
その表情が真剣さを伝え、彼女の話の信憑性を裏打ちしていた。それを感じとった涼の体から、油汗がだらだらと流れ出した。
大学?妊娠?就職?結婚?これから?どうする?…様々なことが涼の頭の中を駆け巡り、若干冷静さを保てなくなってきていた。
「…それでね」
雪奈はまず先に、自分の意志を伝えようと、話を続けた。
「私は産みたいの」
雪奈は短刀直入に切り出した。
その台詞を聞いた涼はますます焦り、混乱してしまった。
「涼、落ち着いて聞いて。私も実は、今後のこととか考えると…と思って、最初は産まないことを考えていたんだけど…お母さんに話したら、こう言ったの」
「なんて?」
涼は固唾を飲んだ。
唐木田涼の過去編後編
汚れた十字架
「涼…どうしよう」
雪奈の妊娠でっち上げからニ週間。騒動のほとぼりも徐々に冷め始め、涼も反省しそして雪奈の心の闇の部分に恐れを抱きながらも、まだ彼女と付き合っていた。
そんなある日の学校帰り、雪奈は深刻な表情で涼にこう言った。
「ん?なにが?」 「実は…本当に、できてたみたいなの」
「…ん?…それってもしや、子供がってこと?」
雪奈は無言で頷いた。だが、雪奈には前科がある。
その顔をじぃっ…と見つめる涼。彼も暫く何も言わなかったが、にやりと笑って
「またまたぁ」
と言って全くとりあわなかった。
「真面目に聞いてよ!」
雪奈は大きな声で言った。その声の大きさには周りの通行人も立ち止まるほどで、涼もさすがにただこどではないなと気付き、真剣な表情で雪奈と向き合った。
「…そりゃあ私も、この前同じ嘘をついたけど、今度は本当なの。だって…」
「だって?」
「医者に…そう言われたから…」
雪奈は涼から視線を外さない。
その表情が真剣さを伝え、彼女の話の信憑性を裏打ちしていた。それを感じとった涼の体から、油汗がだらだらと流れ出した。
大学?妊娠?就職?結婚?これから?どうする?…様々なことが涼の頭の中を駆け巡り、若干冷静さを保てなくなってきていた。
「…それでね」
雪奈はまず先に、自分の意志を伝えようと、話を続けた。
「私は産みたいの」
雪奈は短刀直入に切り出した。
その台詞を聞いた涼はますます焦り、混乱してしまった。
「涼、落ち着いて聞いて。私も実は、今後のこととか考えると…と思って、最初は産まないことを考えていたんだけど…お母さんに話したら、こう言ったの」
「なんて?」
涼は固唾を飲んだ。
「…私は実は…お母さんの本当の子供じゃないんだって…お父さんと結婚して、何年経ってもお母さんには子供ができなくて…」
それでも子供が欲しいと願って止まなかった雪奈の母親は、知り合いづてに生まれて間もない女の子を養子にもらったという。
「それが私。その赤ちゃんが私なの」
雪奈の話は涼の胸を突き刺した。
現実とは皮肉なもの。一方では子を望んでも出来ない現実がある。しかしもう一方では、望まないところから命が生まれ、その命を消そうとしてしまっている。
雪奈は涙ながらに言った。
「その話を聞いて、私は思ったわ。お母さんのためにも、絶対に産もうって。だから涼…」
雪奈はここで言葉を止めた。涼も言わずとも分かっている。
だが今、結婚して子供と自らの生活を養っていけるのだろうか?涼は不安だった。何も言えず、雪奈から視線を外してしまった。
「涼…何とか言ってよ…涼!」
妊娠発覚と、自分の過去を知ってしまって情緒不安定になっている雪奈は、泣きながら涼の肩を掴んで声を荒げた。
「何でこんなことになっちゃったの?子供が出来てしまったり、自分が養子だったことを知ってしまったり!」雪奈はもう、取り乱してしまっていた。
すると急に、その場に倒れ込んで気を失ってしまった。
「?!雪奈?どうしたんだ?」
雪奈は高熱を発していた。驚いた涼はすぐに救急車を呼び、自分も同乗して病院に直行した。
その間中、雪奈の手を握りしめ、無事を祈って止まなかった。高熱を出しているというのに、不思議と握った雪奈の手は冷たかった。「雪奈…しっかりするんだ。もうすぐに病院に着くから…それまで頑張れ」
涼は声をかけて励まし続けた。雪奈も朦朧とする意識の中で、
「りょ…ぅ…」
と精一杯の返事をした。
しかし。これが雪奈の最期の言葉となった。
病院に到着し、必死の治療を受けた雪奈だったが、その甲斐なく帰らぬ人となった。
死因は死産。妊娠3ヶ月の状態だった雪奈は、情緒不安定と極度の興奮状態に陥ったことにより胎内が不安定になり、流産してしまった。また雪奈の体も、その負担に耐えられず、結果死産となってしまったという。
『俺のせいだ…俺が雪奈をもっと大切にしていれば、こんなことにはならなかった!雪奈を殺したのは…俺だ』
いくら泣いても嘆いても、何も戻らない。
全ては涼の女好きから始まったこの事件。涼自ら十字架を背負った。
それから時が経ち、涼は大学へ進学した。けれども、雪奈の死のショックから抜け出せず、うつうつとした生活を送っていた。
そんな涼の姿をみかねた真輔は、
「涼…瀬谷さんのことは確かにショックかもしれない。自分のせいだと思っているかもしれない。でもさ、いくら後悔したって泣いたって、どうにもならないんだぜ。だったら過去を引きずるよりは、あの事件を教訓にして、これからは付き合ったら一人の女性を大切にして生きていく!って誓って前向いていった方がいいんじゃないのか?」 そっとたしなめた。真輔のこの言葉に感銘を受けたのか、少しつづ元気を取り戻していった。やがて涼は都子と出会い、付き合い始めた。
そんなことがあって、涼はもちろんのこと、真輔も二人には長く付き合ってもらいたいと思っていた。
だからこそ。真輔は二人の仲を壊す要因になりうる遥が嫌いだった。そういう個人的感情もあるが、真輔は直感で遥には何か良くないものを感じていた。
時は戻り2006年12月25日。都子の見舞いに来た涼・真輔・遥の3人は、都子の病室に通された。
部屋は個室で、ドアを開けるとすぐ左手に都子の横たわるベッドがあった。
頭に包帯を巻かれ、布団の上に乗せた右腕には点滴がされていた。頭を強く打ったという割には、顔そのものの傷は少なく、いつもの都子がそこに眠っていた。少し揺すればすぐ起きてきそうなほどに…
「都子」
涼は彼女の右手を両手で優しく包んだ。その手は、3年前、雪奈の手を握った時の様に冷たかった。もしやこれが、死を前にした人間の兆候なのでは…と考えてしまった涼は、溢れる涙を抑えることができなかった。
「…俺達は出よう」
二人に気を遣い、真輔は遥と一緒に病室を出た。
「唐木田さん、残念ですが面会時間はこれで終わりです。明日また…」
暫くして、看護婦が入って来て面会の終了を告げた。
「また来るよ」
涼は涙をふいて病室を後にした。そしてエレベーターに乗り、病院の入口まで来た時…そこには遥が待っていた。真輔はもういなかった。
「ハル?帰ったんじゃなかったのか?」
「涼先輩に話したいことがあって…ちょっと付き合ってもらえます?」
遥は笑顔で言い、涼を半ば強制的に近くのドトールへ連れて行った。
涼も観念して、遥の話を聞くことにした。
「…で?話って何だ?」
「実は…あの…」
〜第五話に続く〜
それでも子供が欲しいと願って止まなかった雪奈の母親は、知り合いづてに生まれて間もない女の子を養子にもらったという。
「それが私。その赤ちゃんが私なの」
雪奈の話は涼の胸を突き刺した。
現実とは皮肉なもの。一方では子を望んでも出来ない現実がある。しかしもう一方では、望まないところから命が生まれ、その命を消そうとしてしまっている。
雪奈は涙ながらに言った。
「その話を聞いて、私は思ったわ。お母さんのためにも、絶対に産もうって。だから涼…」
雪奈はここで言葉を止めた。涼も言わずとも分かっている。
だが今、結婚して子供と自らの生活を養っていけるのだろうか?涼は不安だった。何も言えず、雪奈から視線を外してしまった。
「涼…何とか言ってよ…涼!」
妊娠発覚と、自分の過去を知ってしまって情緒不安定になっている雪奈は、泣きながら涼の肩を掴んで声を荒げた。
「何でこんなことになっちゃったの?子供が出来てしまったり、自分が養子だったことを知ってしまったり!」雪奈はもう、取り乱してしまっていた。
すると急に、その場に倒れ込んで気を失ってしまった。
「?!雪奈?どうしたんだ?」
雪奈は高熱を発していた。驚いた涼はすぐに救急車を呼び、自分も同乗して病院に直行した。
その間中、雪奈の手を握りしめ、無事を祈って止まなかった。高熱を出しているというのに、不思議と握った雪奈の手は冷たかった。「雪奈…しっかりするんだ。もうすぐに病院に着くから…それまで頑張れ」
涼は声をかけて励まし続けた。雪奈も朦朧とする意識の中で、
「りょ…ぅ…」
と精一杯の返事をした。
しかし。これが雪奈の最期の言葉となった。
病院に到着し、必死の治療を受けた雪奈だったが、その甲斐なく帰らぬ人となった。
死因は死産。妊娠3ヶ月の状態だった雪奈は、情緒不安定と極度の興奮状態に陥ったことにより胎内が不安定になり、流産してしまった。また雪奈の体も、その負担に耐えられず、結果死産となってしまったという。
『俺のせいだ…俺が雪奈をもっと大切にしていれば、こんなことにはならなかった!雪奈を殺したのは…俺だ』
いくら泣いても嘆いても、何も戻らない。
全ては涼の女好きから始まったこの事件。涼自ら十字架を背負った。
それから時が経ち、涼は大学へ進学した。けれども、雪奈の死のショックから抜け出せず、うつうつとした生活を送っていた。
そんな涼の姿をみかねた真輔は、
「涼…瀬谷さんのことは確かにショックかもしれない。自分のせいだと思っているかもしれない。でもさ、いくら後悔したって泣いたって、どうにもならないんだぜ。だったら過去を引きずるよりは、あの事件を教訓にして、これからは付き合ったら一人の女性を大切にして生きていく!って誓って前向いていった方がいいんじゃないのか?」 そっとたしなめた。真輔のこの言葉に感銘を受けたのか、少しつづ元気を取り戻していった。やがて涼は都子と出会い、付き合い始めた。
そんなことがあって、涼はもちろんのこと、真輔も二人には長く付き合ってもらいたいと思っていた。
だからこそ。真輔は二人の仲を壊す要因になりうる遥が嫌いだった。そういう個人的感情もあるが、真輔は直感で遥には何か良くないものを感じていた。
時は戻り2006年12月25日。都子の見舞いに来た涼・真輔・遥の3人は、都子の病室に通された。
部屋は個室で、ドアを開けるとすぐ左手に都子の横たわるベッドがあった。
頭に包帯を巻かれ、布団の上に乗せた右腕には点滴がされていた。頭を強く打ったという割には、顔そのものの傷は少なく、いつもの都子がそこに眠っていた。少し揺すればすぐ起きてきそうなほどに…
「都子」
涼は彼女の右手を両手で優しく包んだ。その手は、3年前、雪奈の手を握った時の様に冷たかった。もしやこれが、死を前にした人間の兆候なのでは…と考えてしまった涼は、溢れる涙を抑えることができなかった。
「…俺達は出よう」
二人に気を遣い、真輔は遥と一緒に病室を出た。
「唐木田さん、残念ですが面会時間はこれで終わりです。明日また…」
暫くして、看護婦が入って来て面会の終了を告げた。
「また来るよ」
涼は涙をふいて病室を後にした。そしてエレベーターに乗り、病院の入口まで来た時…そこには遥が待っていた。真輔はもういなかった。
「ハル?帰ったんじゃなかったのか?」
「涼先輩に話したいことがあって…ちょっと付き合ってもらえます?」
遥は笑顔で言い、涼を半ば強制的に近くのドトールへ連れて行った。
涼も観念して、遥の話を聞くことにした。
「…で?話って何だ?」
「実は…あの…」
〜第五話に続く〜
Posted by ヤギシリン。 at 22:10│Comments(0)