2007年02月13日
ブログ小説『彼女が微笑む時』
☆第六話☆
愚か者への挽歌編中編
彼女が微笑む時〜電車の二人〜
「う…ぅ…ん」
涼は寒さで目を覚ました。
「?!ここは一体…」気がつくと、涼は電車のボックス席の、窓側に座っていた。
涼の他に乗客はなく、窓の外には雪に包まれた山々と、湖が広がっている。電車はゆっくりと動き出した。
「どういうことなんだ?確か俺は、都子を治すために死んだはず…ここはどこなんだ?」
その時、車内アナウンスが入った。
『おはようございます、涼先輩。気分はどうですか?』
それは、遥の声だった。
「ハル?これはどういうことなんだ?君は一体何者なんだ?」
『まぁ落ち着いて下さい。順を追ってお話しますよ。』
涼は固唾を呑んで遥の言葉を待った。
『まず涼先輩、あなたの命を頂いたお陰で、無事都子先輩を完治させることができました』
嘘か真か…涼には確認する術がなかった。
確かに遥が猫を再生させたのは目撃したが、都子の時は見届けていない。
『納得していませんね…?』
遥は涼の心を見透かしたように言葉をかけてきた。
「当たり前さ。この目で確認したわけでもないし…いや、この空間だって、君が猫を再生させたのだって、夢なんじゃないかと思っているよ」
『…そして、都子先輩の事故も夢であって欲しい…そう思っているんですか?』
涼はぎくりとした。図星をつかれて何も言えなくなってしまった。
『図星ですか?ふふ…』
笑い声と共に、涼の前に突然遥が現れた。
愚か者への挽歌編中編
彼女が微笑む時〜電車の二人〜
「う…ぅ…ん」
涼は寒さで目を覚ました。
「?!ここは一体…」気がつくと、涼は電車のボックス席の、窓側に座っていた。
涼の他に乗客はなく、窓の外には雪に包まれた山々と、湖が広がっている。電車はゆっくりと動き出した。
「どういうことなんだ?確か俺は、都子を治すために死んだはず…ここはどこなんだ?」
その時、車内アナウンスが入った。
『おはようございます、涼先輩。気分はどうですか?』
それは、遥の声だった。
「ハル?これはどういうことなんだ?君は一体何者なんだ?」
『まぁ落ち着いて下さい。順を追ってお話しますよ。』
涼は固唾を呑んで遥の言葉を待った。
『まず涼先輩、あなたの命を頂いたお陰で、無事都子先輩を完治させることができました』
嘘か真か…涼には確認する術がなかった。
確かに遥が猫を再生させたのは目撃したが、都子の時は見届けていない。
『納得していませんね…?』
遥は涼の心を見透かしたように言葉をかけてきた。
「当たり前さ。この目で確認したわけでもないし…いや、この空間だって、君が猫を再生させたのだって、夢なんじゃないかと思っているよ」
『…そして、都子先輩の事故も夢であって欲しい…そう思っているんですか?』
涼はぎくりとした。図星をつかれて何も言えなくなってしまった。
『図星ですか?ふふ…』
笑い声と共に、涼の前に突然遥が現れた。
「!ハル!」
「残念ながら涼先輩、都子先輩の事故も、今起きていることも全て現実ですよ。あなたは都子先輩のために、命を捧げた。そしてここは、死んだ人間の魂が死後の世界へ行く前に通る道…」
涼はまだ納得していなかった。
「…都子先輩が本当に完治したのか、確認するまでは、ということですか。…では、証拠をお見せしましょう」そう言うと、遥は窓の外に向かって手をかざした。
…すると…景色が一部分だけ、映画のスクリーンのように変化し、映像が流れ始めた。どこか見覚えのある、病室のようだった。
「あそこは…まさか…」
「そう、都子先輩の病室です。あれをご覧なさい」
遥はスクリーンの中心に映っている女性を指さした。
「!都子!」
涼は思わず大声を出した。確かに映っているのは都子だった。
まだ自分に何が起こったか理解出来ず、ベッドから出られないようだったが、そこにはしっかりと上半身を起こしている都子がいた。
「都子…よかった…」涼は大粒の涙を流して喜んだ。
「でも先輩、都子先輩の様子がおかしくありませんか?」
その感動に水をさすような指摘をした。
…確かに都子は、ベッドの下を見て、取り乱しているようだ。そこにあるものとは…
「俺…か?」
そう、そこには力なく横たわっている涼がいた。それを見て、都子は驚いているようだった。
「その通り。涼先輩、あなたです。最も、あそこにあるのは肉体だけ…死体も同じです」遥は冷たく言い放った。
唖然とした涼は、改めて遥に聞いた。
「…こんなことが出来るなんて…ハル、君は一体何者なんだ?」
遥はニヤリと笑って、
「私は人間の生と死を司る死神…普段はこうして、死者の魂を運ぶ仕事をしているのですが…たまに人間世界に降りて、命を与えたり奪ったり…」
もう何が現実で何が夢なのか?人知を超えた出来事が多すぎて、涼は何がなんだか分からなくなってきた。
『でも、都子が助かったのは事実だ』
それだけは信じよう。そう心に言いきかせた。
「涼先輩、おめでとうございます。念願が叶いましたね…」
「あぁ…だが、君にありがとうと言うべきなのか…俺は命を取られたんだからな」
涼は苦笑いしながら、遥を見た。
「お礼なんてどうでもいいんですよ。…それより先輩、このままでいいんですか?」
「?何が?」
「都子先輩のことですよ。涼先輩が死んでしまったと知って、悲しんでますよ」
涼はちらりとスクリーンを見た。確かに、涼の体を抱き抱えて泣いている都子が見える。「…仕方ないさ。俺は都子を完治させるために命を捧げた。もうどうしようもないだろ。出来ることはやったさ」
その台詞を聞き、遥はニヤリと微笑んだ。
「本当にそれでいいんですか?先輩は都子先輩に、事故前のケンカのことを謝っていないんでしょう?二人一緒に生きて、人生を楽しもうとは思わないんですか?」
…遥はまるで、その方法があるかのような口ぶりで言った。
「…そんなことが可能なのか?」
涼は思わず訪ねた。もう完全に遥のペースである。
「えぇ、可能です。涼先輩の魂が完全に死後の世界に行くまでに、魂を蘇生させます。そのためには」
「他の人間の命が必要…?」
遥は答えず、ただ微笑むだけだった。それが全てを物語っていた。
「魂を蘇生させるにも、その人を良く知る人間の命を頂かなければなりません。…涼先輩の場合、この人かと」
遥はスクリーンを指さした。そこには、病室に入ってきたばかりの真輔が映っていた。
「!シンを?」
真輔と涼はもう6年来の親友だった。普通の状態の涼であれば、すぐに断っただろう。
しかし今涼がいる場所は、魂が剥き出しになる空間。欲望がハバを聞かせ、理性や常識というものの力が弱くなっているのだ。
…涼は葛藤した。
「…都子先輩を悲しませていいんですか?」
そこへ正に悪魔の、死神遥がささいた。
「涼先輩…恋人をかばって死ぬことは周りから見れば美談かもしれません。でも…残された恋人は幸せですか?感謝の気持ちより、悲しみの方が大きいんじゃありませんか?」
涼は、唇をかんで考え込んだ。
遥は更にたたみかけた。
「でも先輩にはチャンスがあるんですよ。恋人をかばい、なおかつ、二人とも幸せに暮らせるチャンスが!…小さなことにこだわっていては、幸せを掴むことはできませんよ」
涼の決断は果たして…
〜次回、最終回『愚か者への挽歌編後編・夢ではないどこかへ』に続く〜
☆★感想等々色々な意見を送って頂けると嬉しいです?よろしくですm(__)m☆★
「残念ながら涼先輩、都子先輩の事故も、今起きていることも全て現実ですよ。あなたは都子先輩のために、命を捧げた。そしてここは、死んだ人間の魂が死後の世界へ行く前に通る道…」
涼はまだ納得していなかった。
「…都子先輩が本当に完治したのか、確認するまでは、ということですか。…では、証拠をお見せしましょう」そう言うと、遥は窓の外に向かって手をかざした。
…すると…景色が一部分だけ、映画のスクリーンのように変化し、映像が流れ始めた。どこか見覚えのある、病室のようだった。
「あそこは…まさか…」
「そう、都子先輩の病室です。あれをご覧なさい」
遥はスクリーンの中心に映っている女性を指さした。
「!都子!」
涼は思わず大声を出した。確かに映っているのは都子だった。
まだ自分に何が起こったか理解出来ず、ベッドから出られないようだったが、そこにはしっかりと上半身を起こしている都子がいた。
「都子…よかった…」涼は大粒の涙を流して喜んだ。
「でも先輩、都子先輩の様子がおかしくありませんか?」
その感動に水をさすような指摘をした。
…確かに都子は、ベッドの下を見て、取り乱しているようだ。そこにあるものとは…
「俺…か?」
そう、そこには力なく横たわっている涼がいた。それを見て、都子は驚いているようだった。
「その通り。涼先輩、あなたです。最も、あそこにあるのは肉体だけ…死体も同じです」遥は冷たく言い放った。
唖然とした涼は、改めて遥に聞いた。
「…こんなことが出来るなんて…ハル、君は一体何者なんだ?」
遥はニヤリと笑って、
「私は人間の生と死を司る死神…普段はこうして、死者の魂を運ぶ仕事をしているのですが…たまに人間世界に降りて、命を与えたり奪ったり…」
もう何が現実で何が夢なのか?人知を超えた出来事が多すぎて、涼は何がなんだか分からなくなってきた。
『でも、都子が助かったのは事実だ』
それだけは信じよう。そう心に言いきかせた。
「涼先輩、おめでとうございます。念願が叶いましたね…」
「あぁ…だが、君にありがとうと言うべきなのか…俺は命を取られたんだからな」
涼は苦笑いしながら、遥を見た。
「お礼なんてどうでもいいんですよ。…それより先輩、このままでいいんですか?」
「?何が?」
「都子先輩のことですよ。涼先輩が死んでしまったと知って、悲しんでますよ」
涼はちらりとスクリーンを見た。確かに、涼の体を抱き抱えて泣いている都子が見える。「…仕方ないさ。俺は都子を完治させるために命を捧げた。もうどうしようもないだろ。出来ることはやったさ」
その台詞を聞き、遥はニヤリと微笑んだ。
「本当にそれでいいんですか?先輩は都子先輩に、事故前のケンカのことを謝っていないんでしょう?二人一緒に生きて、人生を楽しもうとは思わないんですか?」
…遥はまるで、その方法があるかのような口ぶりで言った。
「…そんなことが可能なのか?」
涼は思わず訪ねた。もう完全に遥のペースである。
「えぇ、可能です。涼先輩の魂が完全に死後の世界に行くまでに、魂を蘇生させます。そのためには」
「他の人間の命が必要…?」
遥は答えず、ただ微笑むだけだった。それが全てを物語っていた。
「魂を蘇生させるにも、その人を良く知る人間の命を頂かなければなりません。…涼先輩の場合、この人かと」
遥はスクリーンを指さした。そこには、病室に入ってきたばかりの真輔が映っていた。
「!シンを?」
真輔と涼はもう6年来の親友だった。普通の状態の涼であれば、すぐに断っただろう。
しかし今涼がいる場所は、魂が剥き出しになる空間。欲望がハバを聞かせ、理性や常識というものの力が弱くなっているのだ。
…涼は葛藤した。
「…都子先輩を悲しませていいんですか?」
そこへ正に悪魔の、死神遥がささいた。
「涼先輩…恋人をかばって死ぬことは周りから見れば美談かもしれません。でも…残された恋人は幸せですか?感謝の気持ちより、悲しみの方が大きいんじゃありませんか?」
涼は、唇をかんで考え込んだ。
遥は更にたたみかけた。
「でも先輩にはチャンスがあるんですよ。恋人をかばい、なおかつ、二人とも幸せに暮らせるチャンスが!…小さなことにこだわっていては、幸せを掴むことはできませんよ」
涼の決断は果たして…
〜次回、最終回『愚か者への挽歌編後編・夢ではないどこかへ』に続く〜
☆★感想等々色々な意見を送って頂けると嬉しいです?よろしくですm(__)m☆★
Posted by ヤギシリン。 at 22:20│Comments(0)