2007年02月13日
ブログ小説2
『今宵彼女は夢を見る』前編・蜃気楼の時間
『明日香、いよいよ今日から大学が始まるね。頑張ろう!』
『明日香、今日は明日香の家で飲もうよ!』『明日香、今日から合宿が始まるねー!楽しみだね!』
(…京子?…これは大学時代の…何故こんなに時間は経つのが早いものなの?私もいつの間にか社会人になって、2年。いつの間にか今日は昨日になって、今日は明日になって行く…このまま、私どうなるの?)
「…はっ!」
明日香は顔が撫でられる感覚を感じて、目を覚ました。
「シキ」
目を開けると、愛猫のシキがベッドに乗って来て、明日香の顔をなめていた。
時計は6時30分を回っていた。ベッドの正面にある窓のカーテンからは、きれいな朝日が差し込んでいた。
「もう朝か…シキもお腹が空いたんだよね。今ご飯をあげるから」明日香はベッドから降りて、キッチンからキャットフードとボールを持ってきた。
ボールにキャットフードを入れてあげると、シキはすぐさま飛びついてきた。
「美味しそうに食べるね。…シキも、うちに来てもう2年だね」
シキは明日香が社会人になってすぐ、仕事帰りに家の近くで捨てられていた猫だった。社会人になりたての不安と、一人暮らしの寂しさを紛らすために明日香が拾って、大家に内緒で飼い続けていた。「じゃあ、行ってくるね」
明日香はシキが食べ終わるのを見届けてから、家を出た。
『明日香、いよいよ今日から大学が始まるね。頑張ろう!』
『明日香、今日は明日香の家で飲もうよ!』『明日香、今日から合宿が始まるねー!楽しみだね!』
(…京子?…これは大学時代の…何故こんなに時間は経つのが早いものなの?私もいつの間にか社会人になって、2年。いつの間にか今日は昨日になって、今日は明日になって行く…このまま、私どうなるの?)
「…はっ!」
明日香は顔が撫でられる感覚を感じて、目を覚ました。
「シキ」
目を開けると、愛猫のシキがベッドに乗って来て、明日香の顔をなめていた。
時計は6時30分を回っていた。ベッドの正面にある窓のカーテンからは、きれいな朝日が差し込んでいた。
「もう朝か…シキもお腹が空いたんだよね。今ご飯をあげるから」明日香はベッドから降りて、キッチンからキャットフードとボールを持ってきた。
ボールにキャットフードを入れてあげると、シキはすぐさま飛びついてきた。
「美味しそうに食べるね。…シキも、うちに来てもう2年だね」
シキは明日香が社会人になってすぐ、仕事帰りに家の近くで捨てられていた猫だった。社会人になりたての不安と、一人暮らしの寂しさを紛らすために明日香が拾って、大家に内緒で飼い続けていた。「じゃあ、行ってくるね」
明日香はシキが食べ終わるのを見届けてから、家を出た。
明日香、本名を赤坂明日香。神奈川の大学を出、都内の広告代理店に営業として就職した。彼女には、よく過去をを振り返って懐かしむ傾向があった。
楽しかった日々。それはいつしかあっという間に過ぎて行く。
『あれからもうこんなに時間が経ったんだ』という、悲しい様な寂しい様な感情に覆われた。やがてその感情は『楽しい今も、やがて全て過去になる』という考えを生み出し、それは『人間はいずれ死ぬ』というごく当たり前の結論を導き出す。そんなごく当たり前の事に彼女は恐怖し、『戻れるなら、昔に戻りたい』と考えた。
そう思っても、止まらない時間になす術もなく日々を過ごしていた。
「あれ…赤坂さん、おはよう」
「!浦賀さん。おはようございます」
通勤途中の大江戸線の中。明日香は会社の先輩・浦賀誠に出会った。明日香は和泉多摩川から、浦賀は生田から通勤している。同じ路線を使う二人は、電車内で顔を合わせることが多かった。
「赤坂さんは和泉多摩川だったっけ。ちょうどいい所で会った。…ちょっと頼み事があるんだけど…」
「?何ですか?」
「あのさぁ、今日の昼、会社にいる?」
「…そっち系の頼みですか、なら丁重にお断りを…」
「そっち系って何だよ!しかも断るのかよ!違うって!」
「すみません、ちょっと言ってみたくて…昼間は会社にいますよ」「そう。実はさ…」
浦賀の話は、こういうものだった。今日の午後1時、新規のアポを取ったものの、どうしても外せない他のアポが入ってしまったので、新規の方に代わりに行って欲しいということだった。
「私は構いませんけど…本当に行っていいんですか?」
「勿論だよ、ありがとう!お客さんには、俺から言っておくよ。で、会社に着いたらその企業の情報を渡すから…」
浦賀からはその企業のホームページのコピーを渡された。会社の名前は『ガイアコーポレーション』。浦賀の話では、今会社を挙げて取り組んでいる新しいフリーペーパーの電話営業をしていた所、丁度新商品のタイアップを考えていたらしく、トントン拍子でアポが取れたとか…
企業のキャッチコピーに『お客様の癒しと幸せをクリエイトする』とある。…若干怪しげだ。明日香は少し不安になった。
「…でも、結構いい所にあるじゃない…」
都庁前から徒歩5分、パークサイドビル10階にその会社はあった。ビルも綺麗で、フロアもオール絨毯敷きで、管理がしっかり行き届いているようだった。明日香も少し安心して、ガイアコーポレーションのオフィスの門戸を叩いた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
と対応してくれたのは、黒いスーツに身を包んだ若い男性で、とても丁寧に明日香を応接室まで案内してくれた。
「ではしばらく、こちらでお待ち下さい」
と言って通された応接室は社長室の様な雰囲気だった。高そうな机が部屋の真ん中に置かれ、その前にはこれまた高そうなソファーが二つ並べられていた。(一体何をやっている会社だろう…)
明日香は恐縮しながら担当者が来るのを待った。…それから2〜3分位して、
「失礼します」
という声と共に担当者らしい女性が入って来た。
(!えっ?この人が担当さんなの?)
凄い美人だったことにまた度肝を抜かれた。その女性は黒髪で長髪、白いスーツがよく似合う、知的…というよりは神秘的な印象を受けた。
「初めてまして。ガイアコーポレーションの代表をしています、倉敷沙由里と申します」彼女は丁寧に名刺を差し出した。
「(…美人で社長って!世の中不公平だわ…)は、初めまして。私、プロトの赤坂明日香と申します。よろしくお願いします」
明日香も、同じ様に名刺を差し出した。
「頂戴します。まぁお座り下さい」
二人はソファーに向かいあって座った。
「本日はお忙しい所、お時間頂き、ありがとうございます。…それで、お話しの前に、御社の事をお聞きしてよろしいですか?…準備不足で、まだまだ把握しきれていない部分もあるので…」
沙由里はニコッと笑って、
「ええ勿論。弊社の事を良く知って頂いた上で、広告を掲載して頂きたいですから…まず弊社は、キャッチにもあるように、お客様の幸せと癒しをクリエイト(創造)する企業であり、特に幸せのクリエイトに力を入れています」
「幸せのクリエイトとは…?具体的にどういったことを?」
「例えば…女性にとって、美の追求は永遠のテーマ。しかし、いくら美しくなりたいと望んでも、寄る年波には勝てない…」
「でもそれは、どうしようもないことなのでは…」
沙由里は再びニコッと笑い、
「そう、そこなんです!どうしようもないことを実現して、真の幸せをクリエイトする。それが弊社であり、弊社のアイテムなんです」
沙由里の口調は、徐々に熱を帯びてきた。その語気に、明日香は若干タジタジしながら
「でも…そんなことが可能なんですか?」
「ふふ。赤坂さん、私いくつに見える?…正直に言ってみて」
「ええっ?……にじゅう…26歳位ですか?」「56歳なの」
「えっ!ウソ…」
本当よ、と言って、沙由里は免許証を見せてくれた。…確かに、1950年生まれと書かれている。
「信じられない…(由美かおるみたいな人だ)一体何をどうやったらそうなれるんですか?」
「それをするのが弊社の仕事であり、弊社のアイテムってわけ。これについてはまた今度お話しするとして、今回タイアップしたいのはこっちの商品なの」そういって、沙由里は持っていた鞄から小さな箱を取り出した。
「これは…?」
「オルゴールです。勿論ただのオルゴールではなく、過去を思い出しながらこれを聞くと、何とその時分に戻れるというものなの」
「!過去に…?」
ありえない話である。しかし沙由里の年齢の話と、常々昔に戻れればと考えている明日香は表情を変えた。沙由里もその表情の変化を見逃さなかったが、そのまま話を続けた。
「これは、高齢化社会の日本を見据えたものなの。老人は過去を懐かしむ傾向がある…戻れるなら戻りたいと考えている…その願いを叶えるために、弊社の技術を結集して作ったものが、このオルゴールなの」
「そんなことが本当に可能なんですか…?」「…欲しい?」
「えっ…?」
明日香は図星をつかれてドキッとした。
「…私は…」
「丁度いいわ。この商品のタイアップを考えていた所だし、その広告を出して貰う方にモニターして貰えれば、より良い広告が出来ると思うの。だから…ね?」
「で…でも…」
結局、沙由里の押しに負けて明日香はそのオルゴールを貰った。確かに、過去戻りたいと考える明日香にとっては拾いものだが、本当なのか?もし本当に戻れたとして、どんな副作用があるか?半信半疑だった。沙由里は、こんなことも言っていた。
『赤坂さん、モニターは頼んだけれど、幸せは数少ない機会をものにして掴み取った時に味わえるものでもあるわ。…そのオルゴール、多用しては駄目よ』と。使うべきか…迷った明日香は、答えの出せぬまま1日の仕事を終え、帰宅した。
「ただいまぁ…」
そう言ってドアを開けた時、異変に気付いた。
(シキがいない?いつもなら私が帰って来たらすぐ、飛びついてくるのに…)
困惑している所へ、家のチャイムが鳴り、大家が入って来た。
「あ…大家さん」
「赤坂さん、困るんですよねぇ。うちのマンションはペット禁止って知っているでしょう?」
明日香はこの大家の言葉に、嫌な予感を感じた。
「まさかシキを…」
「…お宅の隣の方から苦情が来たんですよ。お宅の猫が勝手に家に入って来て困るってね。隣の方は猫アレルギーだって言ってましてね」
その猫アレルギーの隣人は、最近引越してきたばかりだった。更に、その隣人が越して来る前の住人は人の良いおばさんで、シキを可愛がり、大家にも内緒にしてくれていた。そんなこともあって、シキは隣人宅に入ったのだろう。
「…それで…シキをどうしたんですか?」
「捨てて来ましたよ。遠くにね」
「!そんな、酷い!」「酷いって…元々ルール違反はあなたでしょう?…今回は大目にみますが、次にやったらすぐ出て行って貰いますからね!」
そういって、大家は部屋を出て行った。大家の意見は正しい。けれど、心の支えだったシキを失い、明日香は涙に暮れた…
「シキ…あなたが居なくるなんて…あんなに可愛いシキを捨てるなんて…」
明日香の頭の中に、シキとの思い出が走馬灯の様に流れて行った。(思い出?過去?)
明日香はあのオルゴールの事を思い出し、鞄から取り出した。
「これを使えば、あの楽しかった日に戻れるの…?」
まだ疑心暗鬼な所もあったが、明日香は思い切ってオルゴールを開けた…
〜次回『今宵彼女は夢を見る・後編〜ピーターパンとオルゴール〜』に続く〜
意見・感想等どんどん送って下さい☆よろしくですm(__)m
楽しかった日々。それはいつしかあっという間に過ぎて行く。
『あれからもうこんなに時間が経ったんだ』という、悲しい様な寂しい様な感情に覆われた。やがてその感情は『楽しい今も、やがて全て過去になる』という考えを生み出し、それは『人間はいずれ死ぬ』というごく当たり前の結論を導き出す。そんなごく当たり前の事に彼女は恐怖し、『戻れるなら、昔に戻りたい』と考えた。
そう思っても、止まらない時間になす術もなく日々を過ごしていた。
「あれ…赤坂さん、おはよう」
「!浦賀さん。おはようございます」
通勤途中の大江戸線の中。明日香は会社の先輩・浦賀誠に出会った。明日香は和泉多摩川から、浦賀は生田から通勤している。同じ路線を使う二人は、電車内で顔を合わせることが多かった。
「赤坂さんは和泉多摩川だったっけ。ちょうどいい所で会った。…ちょっと頼み事があるんだけど…」
「?何ですか?」
「あのさぁ、今日の昼、会社にいる?」
「…そっち系の頼みですか、なら丁重にお断りを…」
「そっち系って何だよ!しかも断るのかよ!違うって!」
「すみません、ちょっと言ってみたくて…昼間は会社にいますよ」「そう。実はさ…」
浦賀の話は、こういうものだった。今日の午後1時、新規のアポを取ったものの、どうしても外せない他のアポが入ってしまったので、新規の方に代わりに行って欲しいということだった。
「私は構いませんけど…本当に行っていいんですか?」
「勿論だよ、ありがとう!お客さんには、俺から言っておくよ。で、会社に着いたらその企業の情報を渡すから…」
浦賀からはその企業のホームページのコピーを渡された。会社の名前は『ガイアコーポレーション』。浦賀の話では、今会社を挙げて取り組んでいる新しいフリーペーパーの電話営業をしていた所、丁度新商品のタイアップを考えていたらしく、トントン拍子でアポが取れたとか…
企業のキャッチコピーに『お客様の癒しと幸せをクリエイトする』とある。…若干怪しげだ。明日香は少し不安になった。
「…でも、結構いい所にあるじゃない…」
都庁前から徒歩5分、パークサイドビル10階にその会社はあった。ビルも綺麗で、フロアもオール絨毯敷きで、管理がしっかり行き届いているようだった。明日香も少し安心して、ガイアコーポレーションのオフィスの門戸を叩いた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
と対応してくれたのは、黒いスーツに身を包んだ若い男性で、とても丁寧に明日香を応接室まで案内してくれた。
「ではしばらく、こちらでお待ち下さい」
と言って通された応接室は社長室の様な雰囲気だった。高そうな机が部屋の真ん中に置かれ、その前にはこれまた高そうなソファーが二つ並べられていた。(一体何をやっている会社だろう…)
明日香は恐縮しながら担当者が来るのを待った。…それから2〜3分位して、
「失礼します」
という声と共に担当者らしい女性が入って来た。
(!えっ?この人が担当さんなの?)
凄い美人だったことにまた度肝を抜かれた。その女性は黒髪で長髪、白いスーツがよく似合う、知的…というよりは神秘的な印象を受けた。
「初めてまして。ガイアコーポレーションの代表をしています、倉敷沙由里と申します」彼女は丁寧に名刺を差し出した。
「(…美人で社長って!世の中不公平だわ…)は、初めまして。私、プロトの赤坂明日香と申します。よろしくお願いします」
明日香も、同じ様に名刺を差し出した。
「頂戴します。まぁお座り下さい」
二人はソファーに向かいあって座った。
「本日はお忙しい所、お時間頂き、ありがとうございます。…それで、お話しの前に、御社の事をお聞きしてよろしいですか?…準備不足で、まだまだ把握しきれていない部分もあるので…」
沙由里はニコッと笑って、
「ええ勿論。弊社の事を良く知って頂いた上で、広告を掲載して頂きたいですから…まず弊社は、キャッチにもあるように、お客様の幸せと癒しをクリエイト(創造)する企業であり、特に幸せのクリエイトに力を入れています」
「幸せのクリエイトとは…?具体的にどういったことを?」
「例えば…女性にとって、美の追求は永遠のテーマ。しかし、いくら美しくなりたいと望んでも、寄る年波には勝てない…」
「でもそれは、どうしようもないことなのでは…」
沙由里は再びニコッと笑い、
「そう、そこなんです!どうしようもないことを実現して、真の幸せをクリエイトする。それが弊社であり、弊社のアイテムなんです」
沙由里の口調は、徐々に熱を帯びてきた。その語気に、明日香は若干タジタジしながら
「でも…そんなことが可能なんですか?」
「ふふ。赤坂さん、私いくつに見える?…正直に言ってみて」
「ええっ?……にじゅう…26歳位ですか?」「56歳なの」
「えっ!ウソ…」
本当よ、と言って、沙由里は免許証を見せてくれた。…確かに、1950年生まれと書かれている。
「信じられない…(由美かおるみたいな人だ)一体何をどうやったらそうなれるんですか?」
「それをするのが弊社の仕事であり、弊社のアイテムってわけ。これについてはまた今度お話しするとして、今回タイアップしたいのはこっちの商品なの」そういって、沙由里は持っていた鞄から小さな箱を取り出した。
「これは…?」
「オルゴールです。勿論ただのオルゴールではなく、過去を思い出しながらこれを聞くと、何とその時分に戻れるというものなの」
「!過去に…?」
ありえない話である。しかし沙由里の年齢の話と、常々昔に戻れればと考えている明日香は表情を変えた。沙由里もその表情の変化を見逃さなかったが、そのまま話を続けた。
「これは、高齢化社会の日本を見据えたものなの。老人は過去を懐かしむ傾向がある…戻れるなら戻りたいと考えている…その願いを叶えるために、弊社の技術を結集して作ったものが、このオルゴールなの」
「そんなことが本当に可能なんですか…?」「…欲しい?」
「えっ…?」
明日香は図星をつかれてドキッとした。
「…私は…」
「丁度いいわ。この商品のタイアップを考えていた所だし、その広告を出して貰う方にモニターして貰えれば、より良い広告が出来ると思うの。だから…ね?」
「で…でも…」
結局、沙由里の押しに負けて明日香はそのオルゴールを貰った。確かに、過去戻りたいと考える明日香にとっては拾いものだが、本当なのか?もし本当に戻れたとして、どんな副作用があるか?半信半疑だった。沙由里は、こんなことも言っていた。
『赤坂さん、モニターは頼んだけれど、幸せは数少ない機会をものにして掴み取った時に味わえるものでもあるわ。…そのオルゴール、多用しては駄目よ』と。使うべきか…迷った明日香は、答えの出せぬまま1日の仕事を終え、帰宅した。
「ただいまぁ…」
そう言ってドアを開けた時、異変に気付いた。
(シキがいない?いつもなら私が帰って来たらすぐ、飛びついてくるのに…)
困惑している所へ、家のチャイムが鳴り、大家が入って来た。
「あ…大家さん」
「赤坂さん、困るんですよねぇ。うちのマンションはペット禁止って知っているでしょう?」
明日香はこの大家の言葉に、嫌な予感を感じた。
「まさかシキを…」
「…お宅の隣の方から苦情が来たんですよ。お宅の猫が勝手に家に入って来て困るってね。隣の方は猫アレルギーだって言ってましてね」
その猫アレルギーの隣人は、最近引越してきたばかりだった。更に、その隣人が越して来る前の住人は人の良いおばさんで、シキを可愛がり、大家にも内緒にしてくれていた。そんなこともあって、シキは隣人宅に入ったのだろう。
「…それで…シキをどうしたんですか?」
「捨てて来ましたよ。遠くにね」
「!そんな、酷い!」「酷いって…元々ルール違反はあなたでしょう?…今回は大目にみますが、次にやったらすぐ出て行って貰いますからね!」
そういって、大家は部屋を出て行った。大家の意見は正しい。けれど、心の支えだったシキを失い、明日香は涙に暮れた…
「シキ…あなたが居なくるなんて…あんなに可愛いシキを捨てるなんて…」
明日香の頭の中に、シキとの思い出が走馬灯の様に流れて行った。(思い出?過去?)
明日香はあのオルゴールの事を思い出し、鞄から取り出した。
「これを使えば、あの楽しかった日に戻れるの…?」
まだ疑心暗鬼な所もあったが、明日香は思い切ってオルゴールを開けた…
〜次回『今宵彼女は夢を見る・後編〜ピーターパンとオルゴール〜』に続く〜
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Posted by ヤギシリン。 at 22:42│Comments(0)