2007年02月14日
ブログ小説3
『イエスタデイ・マグナム~揺れる天秤~』
中編・再会
俊が記憶を失って5年。その間、ずっと自身の過去を思い出そうとしていた。されど、糸口はなし。
『俺は一体誰なのだろう』
自問自答する日々。そんなある日、届いた手紙。
『お前の過去を知っている。真相を知りたければ、指定した時刻、指定した場所に来い』
差出人は誰なのか?俊はいても立ってもいられなくなった。
「謙三さん…今日のお嬢の見送りは、休ませてくれませんか」
俊はいつも、蓮を小学校まで連れて行くのが朝の日課だった。
手紙の相手の指定した場所は新宿、時間は10:00。謙三の住む駒沢から蓮を送り、新宿に向かおうとすると指定時刻に間に合わなくなってしまうのだ。
「?どうしたんだ俊?蓮を送るのは君の日課だったじゃないか」
「…俺の過去を知っているという奴から手紙が来た。嘘かもしれないけど…そいつに会って、真相を知りたいんです」
俊は真っ直ぐ謙三の目を見た。
「…なるほどね。じゃあ、最終ジャッジは本人にしてもらおうか」
謙三は俊の後ろを指さした。振り返ると、俊の後ろには蓮の姿があった。どうやら今のやりとりを聞いていたようだ。
「お嬢」
「俊坊、私なら平気だよ。もう子供じゃないし、学校くらい一人で行けるよ」
そう行って笑顔を見せた。
「…だそうだ」
「…ありがとうございます。お言葉に甘えます」
俊は深々と頭を下げ、足早に家を出た。
中編・再会
俊が記憶を失って5年。その間、ずっと自身の過去を思い出そうとしていた。されど、糸口はなし。
『俺は一体誰なのだろう』
自問自答する日々。そんなある日、届いた手紙。
『お前の過去を知っている。真相を知りたければ、指定した時刻、指定した場所に来い』
差出人は誰なのか?俊はいても立ってもいられなくなった。
「謙三さん…今日のお嬢の見送りは、休ませてくれませんか」
俊はいつも、蓮を小学校まで連れて行くのが朝の日課だった。
手紙の相手の指定した場所は新宿、時間は10:00。謙三の住む駒沢から蓮を送り、新宿に向かおうとすると指定時刻に間に合わなくなってしまうのだ。
「?どうしたんだ俊?蓮を送るのは君の日課だったじゃないか」
「…俺の過去を知っているという奴から手紙が来た。嘘かもしれないけど…そいつに会って、真相を知りたいんです」
俊は真っ直ぐ謙三の目を見た。
「…なるほどね。じゃあ、最終ジャッジは本人にしてもらおうか」
謙三は俊の後ろを指さした。振り返ると、俊の後ろには蓮の姿があった。どうやら今のやりとりを聞いていたようだ。
「お嬢」
「俊坊、私なら平気だよ。もう子供じゃないし、学校くらい一人で行けるよ」
そう行って笑顔を見せた。
「…だそうだ」
「…ありがとうございます。お言葉に甘えます」
俊は深々と頭を下げ、足早に家を出た。
それから一時間後、9:50。俊は新宿の、手紙に記された住所の近くに来ていた。
「…ここは?まさか…」
その場所は雑居ビル街の一角で、細い路地が続いていた。初めて来る場所のはずだが、どこか見覚えがある。俊は不思議な感覚におそわれた。
「!このビルは…あの夢に出てきたビルでは?」
指定された住所にあったのは、俊がよく見る夢に出てくるビルと同じ場所・同じ外見をしていた。夢では、このビルは8階建てで、俊はその最上階から転落している。そして…
「指定の場所はこのビル…しかも8階になっている!…この手紙の奴は一体…誰なんだ!?」
俊ははやる気持ちを抑えながらビルを上がった。一階…二階…三階…ひたすら登り続け、ビルの最上階・八階へ到達した。
八階は階段を出るとすぐ、吹きさらしの屋上になっている。…そこには黒いスーツの男が一人、立っていた。歳は俊と同じ位か、少し上か…男はどことなく、俊に似ていた。
「む…来たか。ようこそ、記憶喪失君。記憶はなくても、時間には正確なんだな」
男は俊に気付くと、不敵に笑い、声を掛けた。
「あんたは一体…何者なんだ?どうして俺を知っている?」
「どうして…か。ところで…送った写真、見たか?」
男は質問に答えず、逆に質問を投げかけた。俊は少しムッとしたが、こらえて
「…見た。あれは何なんだ?」
「あれはな。6年前写真だよ。お前の20歳の誕生日の時、そして…白虎隊に入った記念として撮ったものさ」
「!白虎隊?俺が?そ…そんなバカな!」
白虎隊とは、5年前、謙三と抗争になり、壊滅した暴力団。今その残党が、謙三に復讐しようと、集結し始めている、という情報が謙三の護衛チーム『壬生狼』のリーダーたる俊の耳にも入っている。男は更に話を続けた。
「嘘じゃあないさ。順を追って話そうか。俺の名は竹ノ塚悠(ゆう)。お前の1つ上の兄貴さ…俊」
「……俺の…兄?」
「そうだ。5年前の白虎隊壊滅の抗争で生き別れたがね。…あの抗争の時、お前は…久が原の放った二人の刺客に追い詰められ、ビルから落ちて死んだと聞いた。…このビルからな」
抗争…二人の刺客…転落…これらの要素が、俊の中で繋がりつつあった。しかしそれは、信じられない現実を生み出そうとしていた。
「生きていて、まさか仇敵の久が原に拾われて暮らしていたとはね。記憶喪失というのも頷ける」
「…何故だ」
俊は小さく囁いた。
「何故俺は、白虎隊に入っていたんだ…」
「…白虎隊のボス・蓮田大地が俺達二人の恩人だからさ」
「どういうことだ?」悠は少し間を置いて、
「俺達の父親は酷い奴でな。働こうとせず、嫌な事があると俺達に暴力をふるっていた…そんな生活に嫌気がさして、俺が12歳の時、お前を連れて家を飛び出したんだ。行くあてなんぞ無かったけどな。…路頭に迷っていた時、俺達を拾って育ててくれたのが白虎隊のボス・蓮田大地だった。その時俺達は誓った。『この人のために、命を懸けて恩を返そう』と…そのため、俺とお前が20歳になった時に正式に白虎隊に入ったんだ。…だから俊、お前は今、いる場所を間違えているんだ。本来ならお前は白虎隊にいるべきなんだ!」
事実であれば、俊は謙三によって殺されかけ、その謙三を守ろうとしていることになる。「謙三さんが俺を利用している?そんなバカな!」
「それが事実なんだよ…俊。奴は、表向きは綺麗事を言うクリーンな政治家だが、裏では平気でヤクザとつるむ。しかも、使えないと判断した組は潰すんだ。白虎隊の時もそうだった」
確かに謙三にはそういう所があった。黒い噂もある。しかし。俊にとっては命の恩人。しかも、とても暖かく迎えてくれている。それを思うと、俊はどうしていいか分からなくなってしまった。
(何が正しいんだ…?誰が正しいんだ…?)
そんな俊に、悠は追い討ちをかける。
「俊…俺は白虎隊にいた時は下っぱだったが、今は白虎隊の残党のリーダーとして久が原を狙っている。ボスの仇を討つためにな!それが恩に報いるってことなんだ。俊、お前もこっち側の人間なんだ。一緒に久が原を討つんだ!目を覚ませ!」
「くぅっ…うるさい!もう黙れ!」
俊は大声を出して話を切った。そして素早く懐から銃を抜き、悠の額につきつけた。
「…物騒だな」
「いきなり現れて余計な事をベラベラと!俺がお前なんかの言うことを信じると思っているのか!」
悠はしばらく黙っていたが、
「…覚えたんだ」
と小さく囁いた。
「…なんだと?」
「白虎隊を再結成させてから半年、ずっと久が原の身辺、行動は監視させていた…俊、もちろんお前のこともな」
「…何が言いたい」
悠は答えず、話を続けた。
「その過程で、覚えたんだ…確かお前は、いつも朝、久が原の娘を学校まで送っていたよな?過保護なことだ」
「答えろ!何が言いたい!」
実際、悠が言わんとしていることは想像がついた。しかし、信じたくなかった。そんな俊の気持ちを嘲笑うように、悠は更に話続けた。
「…今日は送らなくていいのか?娘が学校に行けなくて泣いてるかもしれないぞ」
「貴様、お嬢に…蓮に何をした!」
こうなると、完全に主導権は悠に移った。
「落ち着けよ、俊。まずは銃を置け」
「…答えろ。蓮をどうした」
今度は俊が悠の言葉を堅くなに拒み、銃を降ろそうとしない。
「…そんな態度でいいのかなぁ。この娘がどうなってもいいの?」悠は懐から携帯電話を取り出し、俊の右耳に当てた。
『俊坊…助けて…』
電話からはか細い声が聞こえてくる。
「お嬢、大丈夫か!どこにいるんだ!」
「はい、そこまで」
悠は素早く携帯電話をしまい、向き直った。
「安心しろよ、俊。娘は俺の部下に監禁させてある。お前がしっかり俺の言うことを聞けば、あの娘は無事に返してやるよ」
「くぅ…この卑怯ものが!」
遂に始まった白虎隊の復讐劇。俊は銃を投げ捨てて悔しがったが、どうすることもできなかった。
「さぁて、では久が原の所へ行こうか」
次回『イエスタデイマグナム・後編~義という名のエゴ~』に続く
「…ここは?まさか…」
その場所は雑居ビル街の一角で、細い路地が続いていた。初めて来る場所のはずだが、どこか見覚えがある。俊は不思議な感覚におそわれた。
「!このビルは…あの夢に出てきたビルでは?」
指定された住所にあったのは、俊がよく見る夢に出てくるビルと同じ場所・同じ外見をしていた。夢では、このビルは8階建てで、俊はその最上階から転落している。そして…
「指定の場所はこのビル…しかも8階になっている!…この手紙の奴は一体…誰なんだ!?」
俊ははやる気持ちを抑えながらビルを上がった。一階…二階…三階…ひたすら登り続け、ビルの最上階・八階へ到達した。
八階は階段を出るとすぐ、吹きさらしの屋上になっている。…そこには黒いスーツの男が一人、立っていた。歳は俊と同じ位か、少し上か…男はどことなく、俊に似ていた。
「む…来たか。ようこそ、記憶喪失君。記憶はなくても、時間には正確なんだな」
男は俊に気付くと、不敵に笑い、声を掛けた。
「あんたは一体…何者なんだ?どうして俺を知っている?」
「どうして…か。ところで…送った写真、見たか?」
男は質問に答えず、逆に質問を投げかけた。俊は少しムッとしたが、こらえて
「…見た。あれは何なんだ?」
「あれはな。6年前写真だよ。お前の20歳の誕生日の時、そして…白虎隊に入った記念として撮ったものさ」
「!白虎隊?俺が?そ…そんなバカな!」
白虎隊とは、5年前、謙三と抗争になり、壊滅した暴力団。今その残党が、謙三に復讐しようと、集結し始めている、という情報が謙三の護衛チーム『壬生狼』のリーダーたる俊の耳にも入っている。男は更に話を続けた。
「嘘じゃあないさ。順を追って話そうか。俺の名は竹ノ塚悠(ゆう)。お前の1つ上の兄貴さ…俊」
「……俺の…兄?」
「そうだ。5年前の白虎隊壊滅の抗争で生き別れたがね。…あの抗争の時、お前は…久が原の放った二人の刺客に追い詰められ、ビルから落ちて死んだと聞いた。…このビルからな」
抗争…二人の刺客…転落…これらの要素が、俊の中で繋がりつつあった。しかしそれは、信じられない現実を生み出そうとしていた。
「生きていて、まさか仇敵の久が原に拾われて暮らしていたとはね。記憶喪失というのも頷ける」
「…何故だ」
俊は小さく囁いた。
「何故俺は、白虎隊に入っていたんだ…」
「…白虎隊のボス・蓮田大地が俺達二人の恩人だからさ」
「どういうことだ?」悠は少し間を置いて、
「俺達の父親は酷い奴でな。働こうとせず、嫌な事があると俺達に暴力をふるっていた…そんな生活に嫌気がさして、俺が12歳の時、お前を連れて家を飛び出したんだ。行くあてなんぞ無かったけどな。…路頭に迷っていた時、俺達を拾って育ててくれたのが白虎隊のボス・蓮田大地だった。その時俺達は誓った。『この人のために、命を懸けて恩を返そう』と…そのため、俺とお前が20歳になった時に正式に白虎隊に入ったんだ。…だから俊、お前は今、いる場所を間違えているんだ。本来ならお前は白虎隊にいるべきなんだ!」
事実であれば、俊は謙三によって殺されかけ、その謙三を守ろうとしていることになる。「謙三さんが俺を利用している?そんなバカな!」
「それが事実なんだよ…俊。奴は、表向きは綺麗事を言うクリーンな政治家だが、裏では平気でヤクザとつるむ。しかも、使えないと判断した組は潰すんだ。白虎隊の時もそうだった」
確かに謙三にはそういう所があった。黒い噂もある。しかし。俊にとっては命の恩人。しかも、とても暖かく迎えてくれている。それを思うと、俊はどうしていいか分からなくなってしまった。
(何が正しいんだ…?誰が正しいんだ…?)
そんな俊に、悠は追い討ちをかける。
「俊…俺は白虎隊にいた時は下っぱだったが、今は白虎隊の残党のリーダーとして久が原を狙っている。ボスの仇を討つためにな!それが恩に報いるってことなんだ。俊、お前もこっち側の人間なんだ。一緒に久が原を討つんだ!目を覚ませ!」
「くぅっ…うるさい!もう黙れ!」
俊は大声を出して話を切った。そして素早く懐から銃を抜き、悠の額につきつけた。
「…物騒だな」
「いきなり現れて余計な事をベラベラと!俺がお前なんかの言うことを信じると思っているのか!」
悠はしばらく黙っていたが、
「…覚えたんだ」
と小さく囁いた。
「…なんだと?」
「白虎隊を再結成させてから半年、ずっと久が原の身辺、行動は監視させていた…俊、もちろんお前のこともな」
「…何が言いたい」
悠は答えず、話を続けた。
「その過程で、覚えたんだ…確かお前は、いつも朝、久が原の娘を学校まで送っていたよな?過保護なことだ」
「答えろ!何が言いたい!」
実際、悠が言わんとしていることは想像がついた。しかし、信じたくなかった。そんな俊の気持ちを嘲笑うように、悠は更に話続けた。
「…今日は送らなくていいのか?娘が学校に行けなくて泣いてるかもしれないぞ」
「貴様、お嬢に…蓮に何をした!」
こうなると、完全に主導権は悠に移った。
「落ち着けよ、俊。まずは銃を置け」
「…答えろ。蓮をどうした」
今度は俊が悠の言葉を堅くなに拒み、銃を降ろそうとしない。
「…そんな態度でいいのかなぁ。この娘がどうなってもいいの?」悠は懐から携帯電話を取り出し、俊の右耳に当てた。
『俊坊…助けて…』
電話からはか細い声が聞こえてくる。
「お嬢、大丈夫か!どこにいるんだ!」
「はい、そこまで」
悠は素早く携帯電話をしまい、向き直った。
「安心しろよ、俊。娘は俺の部下に監禁させてある。お前がしっかり俺の言うことを聞けば、あの娘は無事に返してやるよ」
「くぅ…この卑怯ものが!」
遂に始まった白虎隊の復讐劇。俊は銃を投げ捨てて悔しがったが、どうすることもできなかった。
「さぁて、では久が原の所へ行こうか」
次回『イエスタデイマグナム・後編~義という名のエゴ~』に続く
Posted by ヤギシリン。 at 20:39│Comments(0)