2009年03月14日
再開。
連載小説『三銃士〜光が照らすイミテーション〜』
その2・小雀町ロードサイド火災事件
戸塚区小雀町―そこは民家が少なく、林や畑が多い郊外の町であった。
しかし2008年8月15日。この日の小雀町は赤く燃え、ざわめいていた。
『戸塚新聞社』の後輩・旭健太郎のどんな小さなネタに対しても熱く取材してくる姿に、過去の自分を重ねた南は、何かに掻き立てられる様にネタを求め、街へ出た。
2時間ほど奔走したが、手応えは得られず…仕方なくオフィスへ戻ろうと帰路についた。
そんな折、通りかかった小雀町の林の一角で、1台の乗用車が炎上しているのを発見。激しく燃える炎のためによくは見えなかったが、どうやら車内に人がいるようだった。
…が、中の人はもがくこともしなかった。
「これは…ただごとじゃあないな」
即座に事件性を感じ取った南は、懇意にしている戸塚警察署の刑事・神楽と、消防へ連絡を入れた。
「…早急な連絡、感謝するよ。南。この場所は木々が多い…消化が遅れていたら、想像以上の火事になってるところだ」
連絡を入れてから10分弱。神楽は消防隊と警官数名を引き連れてやってきた。
程なくして、車の炎は消し止められた。
「どういたしまして。それより、まだ車の中に人がいたみたいなんだ。それは…」
「あぁ、もう確認したよ。だが…」
神楽はゆっくりと焼け焦げた車に近づき、運転席と助手席を指差した。
「…見えるかい?被害者は2名。…もちろん死んでいる…が…身元はおろか、性別も判定できるかどうか?…という状況さ」
「…!!せ…性別さえ分からないような…?」
思わず南は息をのんだ。
…確かに…遠目から見ても遺体の損傷は著しく、直視できなかった。
「…一体何があったんだろう…」
「ふむ。事件なのか?事故なのか?これから色々調べてみないとな。ただ…」
神楽はちらりと車を見た。
「見た所、車体の損傷はないように思える。と、いうことは…」
「何かの事件…?」
「そうなる。………不謹慎だな、南。人が死んだというのに、少し嬉しそうだぞ」
「え…そんなことは…」
思わず顔に手をやった。
「…ま、それも新聞記者としてのサガなのかな…進展があったらすぐ連絡するよ」
「いつもすまない」
「気にするな、いい記事を書いてくれよ」
その後の現場は神楽に任せ、南はオフィスへの帰路についた。
「ただいま…」
戸塚駅前のオフィスに着いたのは、21時を過ぎた頃だった。編集長の金沢や他のメンバーは既に帰宅しており、残っているのは旭健太郎だけだった。
「あ、南さん、お疲れ様です」
「あぁ健太郎。まだ残ってたのか」
「ちょっと明日の取材の準備があって…南さんの方は何か収穫がありましたか?」
「まぁな。久々のスクープ記事になりそうなネタがあってな…」
南は事の顛末を話した。それを聞いていた健太郎の表情も、明らかに嬉しそうだった。
「…やはりサガか…」
「え?なんですか?」
「…あ、いや、なんでもない」
だがやはり、あの出来事を思い返しながら話して聞かせた南も、興奮を隠しきれずにいた。
あの車に乗っていた人達はどんな人間なのか?誰なのか?何故あの場所にいたのか?車体に損傷がないのは何故?それなのに燃えていたのは何故?火をつけたとしたら誰が?…湧き上がる好奇心と疑問を抑えきれない。
(…この事件は、俺が記者として復活するための第一歩だ。必ず真相を突き止め、事の次第を全て報道してみせる。…あの時とは違って、今俺が所属しているのは小さな新聞社だ。…誰にも邪魔させるものか!)
かつて大手新聞社の記者として日夜事件を追い続けていた日々の血が蘇り、怠惰だった日々に変化を与えた。
翌日もいち早く事件の真相を知るために、朝一番で戸塚警察署の神楽の元へと足を運んだ。
「神楽さん、昨日の火事について何か進展は?やはり何らかの事件なのか?」
神楽を見つけるなり捕まえて質問を浴びせた。神楽も苦笑いして
「…おはようもなく、いきなりそれか。まぁお前らしいといえばそうか」
「失礼失礼。どうにも昨日から気がはやってて…」
「…そうか、ではこの資料は、その気の高ぶりにもっと火をつけてしまうかもな」
神楽は一枚の書類を南に手渡した。書類には『小雀町ロードサイド火災事件報告書』と銘打ってあった。
(事件…て書くってことはやはり、ただの事故じゃない…?)
南の疑問はすぐに解決された。
「……!これは…!…『炎上した車内からは男女2名の遺体が発見された。損傷が酷く、まだ身元の確認はされていない。検死の結果、死因は鋭利な刃物による刺傷と断定』…だって?!」
急転直下、事態は風雲急を告げていた。
続く
その2・小雀町ロードサイド火災事件
戸塚区小雀町―そこは民家が少なく、林や畑が多い郊外の町であった。
しかし2008年8月15日。この日の小雀町は赤く燃え、ざわめいていた。
『戸塚新聞社』の後輩・旭健太郎のどんな小さなネタに対しても熱く取材してくる姿に、過去の自分を重ねた南は、何かに掻き立てられる様にネタを求め、街へ出た。
2時間ほど奔走したが、手応えは得られず…仕方なくオフィスへ戻ろうと帰路についた。
そんな折、通りかかった小雀町の林の一角で、1台の乗用車が炎上しているのを発見。激しく燃える炎のためによくは見えなかったが、どうやら車内に人がいるようだった。
…が、中の人はもがくこともしなかった。
「これは…ただごとじゃあないな」
即座に事件性を感じ取った南は、懇意にしている戸塚警察署の刑事・神楽と、消防へ連絡を入れた。
「…早急な連絡、感謝するよ。南。この場所は木々が多い…消化が遅れていたら、想像以上の火事になってるところだ」
連絡を入れてから10分弱。神楽は消防隊と警官数名を引き連れてやってきた。
程なくして、車の炎は消し止められた。
「どういたしまして。それより、まだ車の中に人がいたみたいなんだ。それは…」
「あぁ、もう確認したよ。だが…」
神楽はゆっくりと焼け焦げた車に近づき、運転席と助手席を指差した。
「…見えるかい?被害者は2名。…もちろん死んでいる…が…身元はおろか、性別も判定できるかどうか?…という状況さ」
「…!!せ…性別さえ分からないような…?」
思わず南は息をのんだ。
…確かに…遠目から見ても遺体の損傷は著しく、直視できなかった。
「…一体何があったんだろう…」
「ふむ。事件なのか?事故なのか?これから色々調べてみないとな。ただ…」
神楽はちらりと車を見た。
「見た所、車体の損傷はないように思える。と、いうことは…」
「何かの事件…?」
「そうなる。………不謹慎だな、南。人が死んだというのに、少し嬉しそうだぞ」
「え…そんなことは…」
思わず顔に手をやった。
「…ま、それも新聞記者としてのサガなのかな…進展があったらすぐ連絡するよ」
「いつもすまない」
「気にするな、いい記事を書いてくれよ」
その後の現場は神楽に任せ、南はオフィスへの帰路についた。
「ただいま…」
戸塚駅前のオフィスに着いたのは、21時を過ぎた頃だった。編集長の金沢や他のメンバーは既に帰宅しており、残っているのは旭健太郎だけだった。
「あ、南さん、お疲れ様です」
「あぁ健太郎。まだ残ってたのか」
「ちょっと明日の取材の準備があって…南さんの方は何か収穫がありましたか?」
「まぁな。久々のスクープ記事になりそうなネタがあってな…」
南は事の顛末を話した。それを聞いていた健太郎の表情も、明らかに嬉しそうだった。
「…やはりサガか…」
「え?なんですか?」
「…あ、いや、なんでもない」
だがやはり、あの出来事を思い返しながら話して聞かせた南も、興奮を隠しきれずにいた。
あの車に乗っていた人達はどんな人間なのか?誰なのか?何故あの場所にいたのか?車体に損傷がないのは何故?それなのに燃えていたのは何故?火をつけたとしたら誰が?…湧き上がる好奇心と疑問を抑えきれない。
(…この事件は、俺が記者として復活するための第一歩だ。必ず真相を突き止め、事の次第を全て報道してみせる。…あの時とは違って、今俺が所属しているのは小さな新聞社だ。…誰にも邪魔させるものか!)
かつて大手新聞社の記者として日夜事件を追い続けていた日々の血が蘇り、怠惰だった日々に変化を与えた。
翌日もいち早く事件の真相を知るために、朝一番で戸塚警察署の神楽の元へと足を運んだ。
「神楽さん、昨日の火事について何か進展は?やはり何らかの事件なのか?」
神楽を見つけるなり捕まえて質問を浴びせた。神楽も苦笑いして
「…おはようもなく、いきなりそれか。まぁお前らしいといえばそうか」
「失礼失礼。どうにも昨日から気がはやってて…」
「…そうか、ではこの資料は、その気の高ぶりにもっと火をつけてしまうかもな」
神楽は一枚の書類を南に手渡した。書類には『小雀町ロードサイド火災事件報告書』と銘打ってあった。
(事件…て書くってことはやはり、ただの事故じゃない…?)
南の疑問はすぐに解決された。
「……!これは…!…『炎上した車内からは男女2名の遺体が発見された。損傷が酷く、まだ身元の確認はされていない。検死の結果、死因は鋭利な刃物による刺傷と断定』…だって?!」
急転直下、事態は風雲急を告げていた。
続く
Posted by ヤギシリン。 at 20:07│Comments(0)