2007年02月14日

ブログ小説3

『イエスタデイ・マグナム~揺れる天秤~』
エピローグ・過去を撃て!


「…気分はどうかな?久が原さん」
新宿の廃墟ビルで俊と対峙し、重傷を負わせた悠。
その場を去り、今度は、世田谷にある謙三の自宅に場所を変え、縛り上げた謙三…そしてその娘・蓮を前にしていた。
というのも、俊を負傷させた後、その足で謙三の家に直行。俊というリーダーを失って弱体化した謙三の私設護衛チーム『壬生狼』を一掃し、謙三宅に侵入。謙三を発見するなりすぐに縛り上げ、前々から拉致してあった蓮と一緒にリビングのソファーに並べたのであった。
謙三を見下ろして吐く悠の言葉には、優越感があった。
「な…何だお前は?一体私に何の恨みがあってこんなことを?」
当の謙三は、本気で悠の事を知らなかった。蓮田大地の白虎隊が壊滅した当初、悠はまだ22歳で、組員としては下っぱだった。それに謙三も、俊がリーダーを務める『壬生狼』の様な護衛チームを作っておらず、揉め事はいつも外部の人間を使って解決させていた。
そんなこともあって、謙三にとって、悠に縛られるなどということは正に晴天の碧歴だった。
「ふふ…俺が誰か分からないのか?ま…無理もないか。お前の放った刺客に組織が潰された時、俺は下っぱだったからな」
「組織…?刺客?」
「教えてやるよ。俺は白虎隊の生き残り…竹ノ塚悠だ」  続きを読む


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2007年02月14日

ブログ小説3

『イエスタデイ・マグナム~揺れる天秤~』
後編・対決~義という名のエゴ~


「兄ちゃん…お腹空いたよ…」
降り頻る雨の中。悠は幼い俊の手を引きながら、夜の新宿の街をさまよっていた。
「我慢しろよ、俊。俺だって腹減っているんだ。口に出すと余計に食べたくなるぞ」
悠達二人の父親は酷い男で、何か嫌なことがあると、その度に悠達を殴った。幼い二人に抵抗出来る力などあるはずもなく、ただひたすら耐える日々が続いていた。が、
『このままでは殺されてしまう』
危機感を覚えた悠は、ある日俊を連れて家を飛び出した。
『家を出たはいいけど、これからどうしよう…』
行くあてなどなかった。ただ父親から逃げたい。その一心で家を出た悠達だが、今度は飢えと寒さが二人を襲った。
『あぁ、この世に神様なんていないのかな…なんで俺達だけこんな目に遭うんだろう』
死にそうになり、希望を失った悠は世の中を、自分の運命を呪った。そんな時…
『…大丈夫か?寒そうだな』
と救いの手をさしのべたのが、蓮田大地だった。彼は白虎隊というヤクザのボスだったが、悠と俊を実の子供のように可愛がった。
『助けてくれたのは感謝してます…でも何で、僕らにこんな良くしてくれるんですか?』元気を取り戻した悠は、蓮田に聞いた。すると蓮田は笑って、
『困った時はお互い様だろう?それに…俺には子供がいないからな。それもあるんじゃないかな』
そういって、悠の頭を優しくなでた。
その言葉にひどく感動した悠は、
『この恩は一生忘れない…いつか必ず、あなたに恩返しをします』こう誓い、俊には
『いいか俊、大地さんは俺達兄弟の命の恩人だ。大地さんが困っていたら、必ず助けるんだぜ。いいな』
と言ってきかせた。
『うん、わかったよ兄ちゃん』
こうして兄弟は蓮田大地に尽くすことを決めた。悠12歳、俊8歳の時のことであった。  続きを読む


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2007年02月14日

ブログ小説3

『イエスタデイ・マグナム~揺れる天秤~』
中編・再会


俊が記憶を失って5年。その間、ずっと自身の過去を思い出そうとしていた。されど、糸口はなし。
『俺は一体誰なのだろう』
自問自答する日々。そんなある日、届いた手紙。
『お前の過去を知っている。真相を知りたければ、指定した時刻、指定した場所に来い』
差出人は誰なのか?俊はいても立ってもいられなくなった。
「謙三さん…今日のお嬢の見送りは、休ませてくれませんか」
俊はいつも、蓮を小学校まで連れて行くのが朝の日課だった。
手紙の相手の指定した場所は新宿、時間は10:00。謙三の住む駒沢から蓮を送り、新宿に向かおうとすると指定時刻に間に合わなくなってしまうのだ。
「?どうしたんだ俊?蓮を送るのは君の日課だったじゃないか」
「…俺の過去を知っているという奴から手紙が来た。嘘かもしれないけど…そいつに会って、真相を知りたいんです」
俊は真っ直ぐ謙三の目を見た。
「…なるほどね。じゃあ、最終ジャッジは本人にしてもらおうか」
謙三は俊の後ろを指さした。振り返ると、俊の後ろには蓮の姿があった。どうやら今のやりとりを聞いていたようだ。
「お嬢」
「俊坊、私なら平気だよ。もう子供じゃないし、学校くらい一人で行けるよ」
そう行って笑顔を見せた。
「…だそうだ」
「…ありがとうございます。お言葉に甘えます」
俊は深々と頭を下げ、足早に家を出た。  続きを読む


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2007年02月14日

ブログ小説3

『イエスタデイ・マグナム~揺れる天秤~』
前編・過去からの手紙

「はぁ…はぁ…捕まってたまるか!」
2001年11月。冷たい雨が降りしきる中、久が原俊は夜の新宿の路地を、傘もささずに駆け回っていた。
「どっちへ逃げた?」「!いたぞ、あそこだ!」
俊の後ろから、黒スーツの男が二人、追いすがって来た。
必死に逃げる俊。追いかける二人。両者の距離は次第に縮まってきた。
「くぅ…このままじゃ捕まっちまうぜ」
最初はただひたすら、真っ直ぐに走っていた俊だが、急に方向を変え、右側の細い道に入った。
そして、突き当たってすぐの場所にあったビルに駆け込んだ。
「!なんだあいつ…悪あがきしやがって」
「追うぞ!」
男二人もしっかりついて来た。
俊が入ったビルは、相当古いらしく、内装も汚く、人影もない。
入ってすぐ、目の前に階段があり、俊は一目散に登った。
一階…二階…三階…ひたすら登り続け、ビルの最上階・八階へ到達した。
八階は階段を出るとすぐ、吹きさらしの屋上になっている。この大雨で、フロアには水がたまっていた。
俊は観念したように屋上へ出て、男二人を待った。
「!追いついたぜ。走らせやがって」
「へっ、年貢の納め時だな!死にたく無かったら大人しく捕まりな!」
二人は俊に迫った。俊の後ろにはもう、俊と同じ位の鉄柵があるだけ…逃げ道はない。
「くっ!畜生!」
進退極まって、俊は懐に忍ばせてした短刀を手に、男二人に切りかかった。
「!こいつ…」
男の一人がとっさに銃を抜き、俊の右肩を撃ち抜いた。
その衝撃で俊の体は大きく後退し、勢い余って鉄柵の外へ…
「そっそんな!…うわあああっ!」
「!ここは八階…即死だな…くくっ」
落ちてゆく俊の体。その時間は永遠のように永く感じられ、身体中に恐怖が走った。
(いやだ…死にたくない!誰か…誰か助けてくれ!)  続きを読む


Posted by ヤギシリン。 at 12:35Comments(0)