2007年02月13日
ブログ小説2
『今宵彼女は夢を見る』後編・ピーターパンとオルゴール
「う…ぅ…ん」
気がつくと、明日香はコタツで眠っていた。寒さで目が覚め、重い瞼を開けた。枕代わりにした座布団の横には、沙由里から貰ったあのオルゴールがあった。
「…?あれ?…ここは…?」
体を起こして周りを見回した。いつもと何かが違う。部屋の雰囲気、家具の配置…違和感を感じたが、何か懐かしくもあった。
(それに、部屋が凄く散らかっている…朝出て行く時は綺麗だったのに。私…どうしたんだろう?確か、家に帰ってそれから…あの沙由里って人から貰ったオルゴールを開けて…)
戸惑っていると、部屋のドアが開いて、誰かが入ってきた。
「あ、明日香起きたんだ。おはよー。またシャワー借りてたよ」
「?!京子?」
そこに現れたのは、2年前、大学卒業と同時に実家の名古屋に帰ったはずの同級生・池上京子だった。
「京子…実家に戻ったんじゃなかったの?」「?何言ってんの、明日香?昨日は二人で、このあなたの家で飲んだじゃない。…飲み過ぎ?」
名古屋に行ったはずの友人?昨日?飲んだ?会社は?ここは?
明日香はまず落ち着いて、状況を整理した。「ねぇねぇ京子、今は何年何月何日何曜日?」
「えぇ?(明日香…相当飲んだみたいね。まぁいっか)今日は、2002年の11月3日金曜日だよ」
「…で、ここは?住所は?」
「………ここはあなたの家、神奈川県川崎市多摩区管稲田堤の…詳しく番地とかは分からないけど、とにかくここは、あなたの家!…明日香、大丈夫?飲みすぎじゃない?」
地方へ行ったはずの友人、2002年11月という日付、そして昔一人暮らししていた稲田堤の家。明日香は改めてあのオルゴールの存在を思い出した。
「(…まさか本当に過去に戻れるなんて……でも…夢かもしれない。念には念を入れないと)ねぇ京子、ちょっと私のほっぺをツネってみてよ」
「ええっ?」
明日香は笑顔だが本気だった。そんな彼女に、京子は若干引いた。
「何言ってんの?明日香…本当に大丈夫?」「大丈夫だから!お願い!」
あまりに明日香がせがむので、京子も仕方なく、彼女の右頬をギュッとツネってあげた。「痛い…でも、何も起きない…夢から醒める感じもない。ということは、本当に過去に戻ったのね!」
ツネられたのにも関わらず、大喜びの明日香。京子は益々引いた。
(凄い…凄いわ、あのオルゴール。本当に過去に戻れるなんて…あぁ、幸せだわ…)
「あ…明日香ぁ、あなた昨日飲みすぎたんじゃない?…何か朝から変だよ」
「京子、私は大丈夫だよ!テンション高いのは、何ていうか…凄い嬉しい事があったからなの!(あぁ…これからまた、あの楽しかった学生時代を過ごす事が出来る…部活や飲みや合宿…考えただけでワクワクするわ!)
それからの明日香は、大学2年生として文字通り大学生活をスタートさせた。
その全てが、記憶の中にあるもの。一番楽しかった時代。若干、自分の知る過去と違う部分はあるものの、それもまた、新鮮な(というのは変かもしれないが)刺激として受け入れ、明日香は生活を楽しんだ。 続きを読む
「う…ぅ…ん」
気がつくと、明日香はコタツで眠っていた。寒さで目が覚め、重い瞼を開けた。枕代わりにした座布団の横には、沙由里から貰ったあのオルゴールがあった。
「…?あれ?…ここは…?」
体を起こして周りを見回した。いつもと何かが違う。部屋の雰囲気、家具の配置…違和感を感じたが、何か懐かしくもあった。
(それに、部屋が凄く散らかっている…朝出て行く時は綺麗だったのに。私…どうしたんだろう?確か、家に帰ってそれから…あの沙由里って人から貰ったオルゴールを開けて…)
戸惑っていると、部屋のドアが開いて、誰かが入ってきた。
「あ、明日香起きたんだ。おはよー。またシャワー借りてたよ」
「?!京子?」
そこに現れたのは、2年前、大学卒業と同時に実家の名古屋に帰ったはずの同級生・池上京子だった。
「京子…実家に戻ったんじゃなかったの?」「?何言ってんの、明日香?昨日は二人で、このあなたの家で飲んだじゃない。…飲み過ぎ?」
名古屋に行ったはずの友人?昨日?飲んだ?会社は?ここは?
明日香はまず落ち着いて、状況を整理した。「ねぇねぇ京子、今は何年何月何日何曜日?」
「えぇ?(明日香…相当飲んだみたいね。まぁいっか)今日は、2002年の11月3日金曜日だよ」
「…で、ここは?住所は?」
「………ここはあなたの家、神奈川県川崎市多摩区管稲田堤の…詳しく番地とかは分からないけど、とにかくここは、あなたの家!…明日香、大丈夫?飲みすぎじゃない?」
地方へ行ったはずの友人、2002年11月という日付、そして昔一人暮らししていた稲田堤の家。明日香は改めてあのオルゴールの存在を思い出した。
「(…まさか本当に過去に戻れるなんて……でも…夢かもしれない。念には念を入れないと)ねぇ京子、ちょっと私のほっぺをツネってみてよ」
「ええっ?」
明日香は笑顔だが本気だった。そんな彼女に、京子は若干引いた。
「何言ってんの?明日香…本当に大丈夫?」「大丈夫だから!お願い!」
あまりに明日香がせがむので、京子も仕方なく、彼女の右頬をギュッとツネってあげた。「痛い…でも、何も起きない…夢から醒める感じもない。ということは、本当に過去に戻ったのね!」
ツネられたのにも関わらず、大喜びの明日香。京子は益々引いた。
(凄い…凄いわ、あのオルゴール。本当に過去に戻れるなんて…あぁ、幸せだわ…)
「あ…明日香ぁ、あなた昨日飲みすぎたんじゃない?…何か朝から変だよ」
「京子、私は大丈夫だよ!テンション高いのは、何ていうか…凄い嬉しい事があったからなの!(あぁ…これからまた、あの楽しかった学生時代を過ごす事が出来る…部活や飲みや合宿…考えただけでワクワクするわ!)
それからの明日香は、大学2年生として文字通り大学生活をスタートさせた。
その全てが、記憶の中にあるもの。一番楽しかった時代。若干、自分の知る過去と違う部分はあるものの、それもまた、新鮮な(というのは変かもしれないが)刺激として受け入れ、明日香は生活を楽しんだ。 続きを読む
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2007年02月13日
ブログ小説2
『今宵彼女は夢を見る』前編・蜃気楼の時間
『明日香、いよいよ今日から大学が始まるね。頑張ろう!』
『明日香、今日は明日香の家で飲もうよ!』『明日香、今日から合宿が始まるねー!楽しみだね!』
(…京子?…これは大学時代の…何故こんなに時間は経つのが早いものなの?私もいつの間にか社会人になって、2年。いつの間にか今日は昨日になって、今日は明日になって行く…このまま、私どうなるの?)
「…はっ!」
明日香は顔が撫でられる感覚を感じて、目を覚ました。
「シキ」
目を開けると、愛猫のシキがベッドに乗って来て、明日香の顔をなめていた。
時計は6時30分を回っていた。ベッドの正面にある窓のカーテンからは、きれいな朝日が差し込んでいた。
「もう朝か…シキもお腹が空いたんだよね。今ご飯をあげるから」明日香はベッドから降りて、キッチンからキャットフードとボールを持ってきた。
ボールにキャットフードを入れてあげると、シキはすぐさま飛びついてきた。
「美味しそうに食べるね。…シキも、うちに来てもう2年だね」
シキは明日香が社会人になってすぐ、仕事帰りに家の近くで捨てられていた猫だった。社会人になりたての不安と、一人暮らしの寂しさを紛らすために明日香が拾って、大家に内緒で飼い続けていた。「じゃあ、行ってくるね」
明日香はシキが食べ終わるのを見届けてから、家を出た。 続きを読む
『明日香、いよいよ今日から大学が始まるね。頑張ろう!』
『明日香、今日は明日香の家で飲もうよ!』『明日香、今日から合宿が始まるねー!楽しみだね!』
(…京子?…これは大学時代の…何故こんなに時間は経つのが早いものなの?私もいつの間にか社会人になって、2年。いつの間にか今日は昨日になって、今日は明日になって行く…このまま、私どうなるの?)
「…はっ!」
明日香は顔が撫でられる感覚を感じて、目を覚ました。
「シキ」
目を開けると、愛猫のシキがベッドに乗って来て、明日香の顔をなめていた。
時計は6時30分を回っていた。ベッドの正面にある窓のカーテンからは、きれいな朝日が差し込んでいた。
「もう朝か…シキもお腹が空いたんだよね。今ご飯をあげるから」明日香はベッドから降りて、キッチンからキャットフードとボールを持ってきた。
ボールにキャットフードを入れてあげると、シキはすぐさま飛びついてきた。
「美味しそうに食べるね。…シキも、うちに来てもう2年だね」
シキは明日香が社会人になってすぐ、仕事帰りに家の近くで捨てられていた猫だった。社会人になりたての不安と、一人暮らしの寂しさを紛らすために明日香が拾って、大家に内緒で飼い続けていた。「じゃあ、行ってくるね」
明日香はシキが食べ終わるのを見届けてから、家を出た。 続きを読む
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2007年02月13日
ブログ小説『彼女が微笑む時』
☆最終回・愚か者への挽歌編・後編☆
一片の友情
「涼が?」
それは、2007年12月24日の夜のこと。都子は同級生の雪彦から連絡を受けた。
「そうなんだ…二人で飲んでた帰り、店を出て横断歩道を渡ろとしたら…急に車が突っ込んで来て…」
電話越しから動揺しきった雪彦の声が聞こえる。はっきりした状況は掴めなかったが、とにかく、横断歩道を渡ろうとした時、暴走車が突っ込んで来て、それに撥ねられたとか…
「涼も結構酔っていたんで、とっさの反応ができなかったんだ…」
「分かった。とにかくすぐに病院に向かうよ。場所は?…東神奈川の…すぐに行くわ」
電話を切るなり都子は家を飛び出した。時刻は午後11時45分。電車があるかどうか微妙な時間帯だったが、都子はお構いなしに駅を目指した。
外はかなり冷え込みんでいて、雪がちらつき始めていた。…今日はクリスマス・イブ。正にホワイト・クリスマスというべきシュチエーションだが、そんなことを考えてる余裕もなく、都子はひたすらに走った。
最寄りの港南台駅に着いたのは12時3分前。Suicaを自動改札に叩きつけ、12時丁度発の赤羽行き最終電車に駆け込んだ。
「…よりによってイブの日に、何でこんな…」
電車に乗るなり、空いている座席に力なく座り、都子は顔を覆った。
都子は涼の無事を祈りながら考えた。…このシュチエーションは、1年前とよく似ている。都子はこの後、植物状態に陥り、回復の見込みは薄いと宣告された。
が、事故から約一ヶ月後。都子は奇跡的に回復したのだ。
(何故突然?)
都子は原因を知りたがった。しかし、医者に聞いても、
『いやぁ、我々にもよく分からないんですよ。もはや奇跡としか…』
と言うばかりで、答えは分からなかった。
『まぁいいじゃないか。助かったんだから』涼はこう言った。
もちろんその通りである。が、都子は何か腑に落ちなかった。
というのも、都子が植物状態から回復した直後、涼は心臓発作を患い、死線をさまよった。
その3日後、涼は無事に回復したものの、今度は同級生の真輔が同じく心臓発作を患い、一週間後に他界してしまった。
更に後輩の遥も時期を同じくして謎の失踪…自分の事故を境目に、大変なことが続発していた。
(それは何故?)
いくら考えても答えは出ない。涼の事故で動揺していたこともあり、しまいには
『私に関わった人は不幸になってしまうのでは…』
などとネガティブなことも考えるようになっててしまっていた。
続きを読む
一片の友情
「涼が?」
それは、2007年12月24日の夜のこと。都子は同級生の雪彦から連絡を受けた。
「そうなんだ…二人で飲んでた帰り、店を出て横断歩道を渡ろとしたら…急に車が突っ込んで来て…」
電話越しから動揺しきった雪彦の声が聞こえる。はっきりした状況は掴めなかったが、とにかく、横断歩道を渡ろうとした時、暴走車が突っ込んで来て、それに撥ねられたとか…
「涼も結構酔っていたんで、とっさの反応ができなかったんだ…」
「分かった。とにかくすぐに病院に向かうよ。場所は?…東神奈川の…すぐに行くわ」
電話を切るなり都子は家を飛び出した。時刻は午後11時45分。電車があるかどうか微妙な時間帯だったが、都子はお構いなしに駅を目指した。
外はかなり冷え込みんでいて、雪がちらつき始めていた。…今日はクリスマス・イブ。正にホワイト・クリスマスというべきシュチエーションだが、そんなことを考えてる余裕もなく、都子はひたすらに走った。
最寄りの港南台駅に着いたのは12時3分前。Suicaを自動改札に叩きつけ、12時丁度発の赤羽行き最終電車に駆け込んだ。
「…よりによってイブの日に、何でこんな…」
電車に乗るなり、空いている座席に力なく座り、都子は顔を覆った。
都子は涼の無事を祈りながら考えた。…このシュチエーションは、1年前とよく似ている。都子はこの後、植物状態に陥り、回復の見込みは薄いと宣告された。
が、事故から約一ヶ月後。都子は奇跡的に回復したのだ。
(何故突然?)
都子は原因を知りたがった。しかし、医者に聞いても、
『いやぁ、我々にもよく分からないんですよ。もはや奇跡としか…』
と言うばかりで、答えは分からなかった。
『まぁいいじゃないか。助かったんだから』涼はこう言った。
もちろんその通りである。が、都子は何か腑に落ちなかった。
というのも、都子が植物状態から回復した直後、涼は心臓発作を患い、死線をさまよった。
その3日後、涼は無事に回復したものの、今度は同級生の真輔が同じく心臓発作を患い、一週間後に他界してしまった。
更に後輩の遥も時期を同じくして謎の失踪…自分の事故を境目に、大変なことが続発していた。
(それは何故?)
いくら考えても答えは出ない。涼の事故で動揺していたこともあり、しまいには
『私に関わった人は不幸になってしまうのでは…』
などとネガティブなことも考えるようになっててしまっていた。
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2007年02月13日
ブログ小説『彼女が微笑む時』
☆第六話☆
愚か者への挽歌編中編
彼女が微笑む時〜電車の二人〜
「う…ぅ…ん」
涼は寒さで目を覚ました。
「?!ここは一体…」気がつくと、涼は電車のボックス席の、窓側に座っていた。
涼の他に乗客はなく、窓の外には雪に包まれた山々と、湖が広がっている。電車はゆっくりと動き出した。
「どういうことなんだ?確か俺は、都子を治すために死んだはず…ここはどこなんだ?」
その時、車内アナウンスが入った。
『おはようございます、涼先輩。気分はどうですか?』
それは、遥の声だった。
「ハル?これはどういうことなんだ?君は一体何者なんだ?」
『まぁ落ち着いて下さい。順を追ってお話しますよ。』
涼は固唾を呑んで遥の言葉を待った。
『まず涼先輩、あなたの命を頂いたお陰で、無事都子先輩を完治させることができました』
嘘か真か…涼には確認する術がなかった。
確かに遥が猫を再生させたのは目撃したが、都子の時は見届けていない。
『納得していませんね…?』
遥は涼の心を見透かしたように言葉をかけてきた。
「当たり前さ。この目で確認したわけでもないし…いや、この空間だって、君が猫を再生させたのだって、夢なんじゃないかと思っているよ」
『…そして、都子先輩の事故も夢であって欲しい…そう思っているんですか?』
涼はぎくりとした。図星をつかれて何も言えなくなってしまった。
『図星ですか?ふふ…』
笑い声と共に、涼の前に突然遥が現れた。
続きを読む
愚か者への挽歌編中編
彼女が微笑む時〜電車の二人〜
「う…ぅ…ん」
涼は寒さで目を覚ました。
「?!ここは一体…」気がつくと、涼は電車のボックス席の、窓側に座っていた。
涼の他に乗客はなく、窓の外には雪に包まれた山々と、湖が広がっている。電車はゆっくりと動き出した。
「どういうことなんだ?確か俺は、都子を治すために死んだはず…ここはどこなんだ?」
その時、車内アナウンスが入った。
『おはようございます、涼先輩。気分はどうですか?』
それは、遥の声だった。
「ハル?これはどういうことなんだ?君は一体何者なんだ?」
『まぁ落ち着いて下さい。順を追ってお話しますよ。』
涼は固唾を呑んで遥の言葉を待った。
『まず涼先輩、あなたの命を頂いたお陰で、無事都子先輩を完治させることができました』
嘘か真か…涼には確認する術がなかった。
確かに遥が猫を再生させたのは目撃したが、都子の時は見届けていない。
『納得していませんね…?』
遥は涼の心を見透かしたように言葉をかけてきた。
「当たり前さ。この目で確認したわけでもないし…いや、この空間だって、君が猫を再生させたのだって、夢なんじゃないかと思っているよ」
『…そして、都子先輩の事故も夢であって欲しい…そう思っているんですか?』
涼はぎくりとした。図星をつかれて何も言えなくなってしまった。
『図星ですか?ふふ…』
笑い声と共に、涼の前に突然遥が現れた。
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2007年02月13日
ブログ小説『彼女が微笑む時』
☆第五話☆
愚か者への挽歌編・前編
綾瀬遥の不思議なチカラ
「都子を治す方法を知っている?」
2006年12月25日の夕暮れ、『話したいことがある』と涼を半ば強制的に連れ込んだドトールの一席で、遥は真顔で言った。
『私は、都子先輩を元に戻す方法を知っている』と…
危篤状態にあり、未だ意識の回復しない都子を…涼は思わず失笑してしまった。
「何がおかしいんですか?」
でも、遥は大真面目のようだ。
「だってさぁ、都子は今、医者もサジを投げるような危篤状態なんだぜ。それをハルがどうしたら治せるっていうんだい」
さっきまで都子の手を握って泣いていたのもどこ吹く風、涼は嘲笑うように言った。 続きを読む
愚か者への挽歌編・前編
綾瀬遥の不思議なチカラ
「都子を治す方法を知っている?」
2006年12月25日の夕暮れ、『話したいことがある』と涼を半ば強制的に連れ込んだドトールの一席で、遥は真顔で言った。
『私は、都子先輩を元に戻す方法を知っている』と…
危篤状態にあり、未だ意識の回復しない都子を…涼は思わず失笑してしまった。
「何がおかしいんですか?」
でも、遥は大真面目のようだ。
「だってさぁ、都子は今、医者もサジを投げるような危篤状態なんだぜ。それをハルがどうしたら治せるっていうんだい」
さっきまで都子の手を握って泣いていたのもどこ吹く風、涼は嘲笑うように言った。 続きを読む
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2007年02月13日
ブログ小説『彼女が微笑む時』
☆第四話☆
唐木田涼の過去編後編
汚れた十字架
「涼…どうしよう」
雪奈の妊娠でっち上げからニ週間。騒動のほとぼりも徐々に冷め始め、涼も反省しそして雪奈の心の闇の部分に恐れを抱きながらも、まだ彼女と付き合っていた。
そんなある日の学校帰り、雪奈は深刻な表情で涼にこう言った。
「ん?なにが?」 「実は…本当に、できてたみたいなの」
「…ん?…それってもしや、子供がってこと?」
雪奈は無言で頷いた。だが、雪奈には前科がある。
その顔をじぃっ…と見つめる涼。彼も暫く何も言わなかったが、にやりと笑って
「またまたぁ」
と言って全くとりあわなかった。
「真面目に聞いてよ!」
雪奈は大きな声で言った。その声の大きさには周りの通行人も立ち止まるほどで、涼もさすがにただこどではないなと気付き、真剣な表情で雪奈と向き合った。
「…そりゃあ私も、この前同じ嘘をついたけど、今度は本当なの。だって…」
「だって?」
「医者に…そう言われたから…」
雪奈は涼から視線を外さない。
その表情が真剣さを伝え、彼女の話の信憑性を裏打ちしていた。それを感じとった涼の体から、油汗がだらだらと流れ出した。
大学?妊娠?就職?結婚?これから?どうする?…様々なことが涼の頭の中を駆け巡り、若干冷静さを保てなくなってきていた。
「…それでね」
雪奈はまず先に、自分の意志を伝えようと、話を続けた。
「私は産みたいの」
雪奈は短刀直入に切り出した。
その台詞を聞いた涼はますます焦り、混乱してしまった。
「涼、落ち着いて聞いて。私も実は、今後のこととか考えると…と思って、最初は産まないことを考えていたんだけど…お母さんに話したら、こう言ったの」
「なんて?」
涼は固唾を飲んだ。
続きを読む
唐木田涼の過去編後編
汚れた十字架
「涼…どうしよう」
雪奈の妊娠でっち上げからニ週間。騒動のほとぼりも徐々に冷め始め、涼も反省しそして雪奈の心の闇の部分に恐れを抱きながらも、まだ彼女と付き合っていた。
そんなある日の学校帰り、雪奈は深刻な表情で涼にこう言った。
「ん?なにが?」 「実は…本当に、できてたみたいなの」
「…ん?…それってもしや、子供がってこと?」
雪奈は無言で頷いた。だが、雪奈には前科がある。
その顔をじぃっ…と見つめる涼。彼も暫く何も言わなかったが、にやりと笑って
「またまたぁ」
と言って全くとりあわなかった。
「真面目に聞いてよ!」
雪奈は大きな声で言った。その声の大きさには周りの通行人も立ち止まるほどで、涼もさすがにただこどではないなと気付き、真剣な表情で雪奈と向き合った。
「…そりゃあ私も、この前同じ嘘をついたけど、今度は本当なの。だって…」
「だって?」
「医者に…そう言われたから…」
雪奈は涼から視線を外さない。
その表情が真剣さを伝え、彼女の話の信憑性を裏打ちしていた。それを感じとった涼の体から、油汗がだらだらと流れ出した。
大学?妊娠?就職?結婚?これから?どうする?…様々なことが涼の頭の中を駆け巡り、若干冷静さを保てなくなってきていた。
「…それでね」
雪奈はまず先に、自分の意志を伝えようと、話を続けた。
「私は産みたいの」
雪奈は短刀直入に切り出した。
その台詞を聞いた涼はますます焦り、混乱してしまった。
「涼、落ち着いて聞いて。私も実は、今後のこととか考えると…と思って、最初は産まないことを考えていたんだけど…お母さんに話したら、こう言ったの」
「なんて?」
涼は固唾を飲んだ。
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2007年02月13日
ブログ小説『彼女が微笑む時』
☆第三話☆
唐木田涼の過去編前編
ターニング・ポイント〜心ない天使の復讐劇〜
真輔と涼はもう6年来の友達だった。その真輔が、遥を見て『3年前の涼と同じ、悪いものを感じる』と言っていた。真輔の言う、3年前の涼はどんな男だったのだろうか…
今から遡ること3年、2003年1月。涼、高校3年の時。それまでは女性に対して奥手だった涼が、最初の彼女・同級生の瀬谷雪奈と付き合い始めてから、彼は変わった。新しい自分に目覚めていった。
雪奈と付き合って1ヶ月で違う女に乗り換え、また次…と、女遊びが激しくなっていったのである。入学以来の友人・真輔もこの変化には驚き、若干呆れて「涼…少しは落ち着いたらどうだ?今までのお前はそんな奴じゃなかったぞ…付き合ったら、もっと女の子を大事にする男かと思ってたのに」
と、はやる涼をたしなめた。しかし、当の本人はそんな忠告もどこ吹く風で、
「まぁ待てよ、シン。俺は何も変わっちゃいないさ。お前、自分が彼女いないからって、ひがんでいるうちに、お前自身が変わっちんじゃないのか?」
と、悪態ついて反論する有り様だった。さすがに真輔もムッとして「変わるもんか!ひがんでもないさ。…まぁいいさ。勝手にするんだな!」
もう涼の女性関係に口出しするのをやめた。涼は相も変わらず、女の尻ばかり追いかけていた。
続きを読む
唐木田涼の過去編前編
ターニング・ポイント〜心ない天使の復讐劇〜
真輔と涼はもう6年来の友達だった。その真輔が、遥を見て『3年前の涼と同じ、悪いものを感じる』と言っていた。真輔の言う、3年前の涼はどんな男だったのだろうか…
今から遡ること3年、2003年1月。涼、高校3年の時。それまでは女性に対して奥手だった涼が、最初の彼女・同級生の瀬谷雪奈と付き合い始めてから、彼は変わった。新しい自分に目覚めていった。
雪奈と付き合って1ヶ月で違う女に乗り換え、また次…と、女遊びが激しくなっていったのである。入学以来の友人・真輔もこの変化には驚き、若干呆れて「涼…少しは落ち着いたらどうだ?今までのお前はそんな奴じゃなかったぞ…付き合ったら、もっと女の子を大事にする男かと思ってたのに」
と、はやる涼をたしなめた。しかし、当の本人はそんな忠告もどこ吹く風で、
「まぁ待てよ、シン。俺は何も変わっちゃいないさ。お前、自分が彼女いないからって、ひがんでいるうちに、お前自身が変わっちんじゃないのか?」
と、悪態ついて反論する有り様だった。さすがに真輔もムッとして「変わるもんか!ひがんでもないさ。…まぁいいさ。勝手にするんだな!」
もう涼の女性関係に口出しするのをやめた。涼は相も変わらず、女の尻ばかり追いかけていた。
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2007年02月13日
ブログ小説『彼女が微笑む時』
☆第ニ話☆
藤澤真輔と綾瀬遥
『じゃあね』という言葉には深さがある。人はみな、仕事が終わった時・学校が終わった時・またはデートが終わった時この言葉を使う。
それは、明日になればすぐに会えるから。…しかし。卒業式等の時に使う『じゃあね』はどういう意味合いを持つだろう。
『じゃあね』と言って次に会うのはいつだろう?1年後?十年後?それとももう会えないかもしれない。
そう考えると、普段何気なく使っている『じゃあね』も、深い意味を帯びてくる。
もし『じゃあね』と言って別れた後、遠い所に引越すことになってしまったら?交通事故に遭い、帰らぬ人になってしまったら?
…そんな言葉の魔力に翻弄される男が一人。唐木田涼。
彼はクリスマスイブというのに、彼女である都子とケンカ別れを。夜になったら謝ろうと思っていた矢先、皮肉なことに彼女は、交通事故に遭い危篤状態に陥ってしまった。『じゃあね』とも『ごめん』とも言えないまま… 続きを読む
藤澤真輔と綾瀬遥
『じゃあね』という言葉には深さがある。人はみな、仕事が終わった時・学校が終わった時・またはデートが終わった時この言葉を使う。
それは、明日になればすぐに会えるから。…しかし。卒業式等の時に使う『じゃあね』はどういう意味合いを持つだろう。
『じゃあね』と言って次に会うのはいつだろう?1年後?十年後?それとももう会えないかもしれない。
そう考えると、普段何気なく使っている『じゃあね』も、深い意味を帯びてくる。
もし『じゃあね』と言って別れた後、遠い所に引越すことになってしまったら?交通事故に遭い、帰らぬ人になってしまったら?
…そんな言葉の魔力に翻弄される男が一人。唐木田涼。
彼はクリスマスイブというのに、彼女である都子とケンカ別れを。夜になったら謝ろうと思っていた矢先、皮肉なことに彼女は、交通事故に遭い危篤状態に陥ってしまった。『じゃあね』とも『ごめん』とも言えないまま… 続きを読む
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ブログ小説『彼女が微笑む時』
☆第一話☆
ホワイト・サイレント・ナイト
「都子が?」
それは、12月24日の夜のこと。涼は同級生の推子から連絡を受けた。
「そうなの…二人で食事していた帰り、お店を出て横断歩道を渡ろとしたら…急に車が突っ込んで来て…」
電話越しから泣きじゃくった推子の声が聞こえる。推子も相当動揺していて、はっきりした状況は掴めなかったが、とにかく、横断歩道を渡ろうとした時、暴走車が突っ込んで来て、それに撥ねられたとか…
「都子…私をかばって、自分だけ…!」
「分かった。とにかくすぐに病院に向かうよ。場所は?…東神奈川の…うん、分かった。すぐに行く。じゃあ現地で」
電話を切るなり涼は家を飛び出した。時刻は午後11時45分。電車があるかどうか微妙な時間帯だったが、涼はお構いなしに駅を目指した。
外はかなり冷え込みんでいて、雪がちらつき始めていた。…今日はクリスマス・イブ。正にホワイト・クリスマスというべきシュチエーションだが、そんなことを考えてる余裕もなく、涼はひたすらに走った。 続きを読む
ホワイト・サイレント・ナイト
「都子が?」
それは、12月24日の夜のこと。涼は同級生の推子から連絡を受けた。
「そうなの…二人で食事していた帰り、お店を出て横断歩道を渡ろとしたら…急に車が突っ込んで来て…」
電話越しから泣きじゃくった推子の声が聞こえる。推子も相当動揺していて、はっきりした状況は掴めなかったが、とにかく、横断歩道を渡ろうとした時、暴走車が突っ込んで来て、それに撥ねられたとか…
「都子…私をかばって、自分だけ…!」
「分かった。とにかくすぐに病院に向かうよ。場所は?…東神奈川の…うん、分かった。すぐに行く。じゃあ現地で」
電話を切るなり涼は家を飛び出した。時刻は午後11時45分。電車があるかどうか微妙な時間帯だったが、涼はお構いなしに駅を目指した。
外はかなり冷え込みんでいて、雪がちらつき始めていた。…今日はクリスマス・イブ。正にホワイト・クリスマスというべきシュチエーションだが、そんなことを考えてる余裕もなく、涼はひたすらに走った。 続きを読む
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